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結局何も言えぬまま別れ、昼以降は一度も会わなかった。放課後は和泉に部活があるので、俺は一人で帰っているのだ。
とりあえず、今日は“延期”という最悪の選択肢を取ってしまった。
ああ~、どうするんだよ……。
このままにしておけば、爆弾はデカくなる一方。しかし、今日みたいな機会がまた訪れるとも限らない。
そんなことを考えているうちに、家にたどり着いていた。
ずぶ濡れの俺は扉を開け、玄関に駆け込む。
「ただいまー。タオルくれぇー」
一刻も早く体を拭かないと、風邪を引いてしまいそうだった。
「はいはーい」
奥から間延びした声が聞こえてくる。
少しして、俺の母親がタオルを持って現れた。
「ん、サンキュ」
持ってきてくれたタオルを無造作に受け取り、体中を拭いていく。
「すぐに着替えを持ってくるから、待ってなさい」
そう言って、母親は俺の部屋に向かうため階段を上り始めた。
「どうせなら、脱衣所まで持ってきてくれ。シャワー浴びないとマジで風邪引いちまう」
足を拭いて俺は廊下に上がり、脱衣所に向かう。
その俺の様子を見て、母親が慌てふためいた。
「ダメよ、ちょっと待ちなさい!」
母親が必死の声を上げる。
シャワーを浴びる、ということしか頭にない俺に、その言葉は全く届かなかった。
「何か言った?」
母親にそう言い返しながら、よく考えもせずに、俺は脱衣所の扉のドアノブに手をかける。
「ダメ――」
母親の制止の声は、時すでに遅し。
俺はそのまま、一気に扉を開け放った。そして硬直する。
俺の視界に飛び込んできたのは、真っ白でスラリとした細い足。
その上にある一枚のピンク色の小さな布。
さらに上には、凹凸のほとんどない胸。
最後に映ったのは、真っ赤になりながら泣きそうになっている少女の顔。
……あ、やべえ。
俺は何事もなかったかのように扉を閉め、速やかに自室に退散した。
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