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「あ~……」
タオルで顔を拭きながら、俺はそんな声を上げた。
上のシャツも汚れてしまったので、着替えて別のシャツを着ている。
「たくっ、信じらんねえぜ」
俺はキッと美沙に睨みを飛ばした。俺の視線を受けて、美沙が気まずそうに目を伏せる。
「全く、着替えたばかりだった、っていうのに……」
これ見よがしに、溜め息を一つ吐いた。
美沙の眉がピクリと吊り上がる。
「何よ! あたしが悪いって言うの!? 自業自得じゃない!?」
「確かに俺にも非はあったけどな……」
今思い返せば、信じられない程失礼なことを言っていた。明らかなセクハラだ。
だから、俺も悪い。それは認めよう。
「だけどな、中身入りのコップを投げるのは、いくらなんでも非常識過ぎるだろ!?」
「う、うぐぐ……」
俺の怒鳴り声に、美沙は唸りながら小さく縮こまった。
「……まあ、いいわ。とりあえず、この件は置いておきましょ」
「よくねえし、置くな」
詰問してるのは俺だ。
美沙に切り上げる権利はない。
「あたし、陽平に聞きたいことがあるの」
「おいコラ、無視か」
俺の文句を黙殺し、美沙は話を続ける。
「あんた、河瀬さんと付き合っているのよね?」
「なっ――」
いきなりのことに、俺は文句を言っていた口の動きを止めた。
その隙に美沙が確信を突く。
「あんた本気なの? 本気で河瀬さんのことが好きなの?」
「…………」
俺は答えられず、黙り込んだ。
美沙との付き合いは長い。だから、分かるのだろう。
俺の気持ちが……。
「どうなの?」
美沙が俺の瞳を覗き込む。俺も美沙の瞳を見つめ返した。
「…………?」
美沙の瞳には非難の色があった。当然だ。
しかし、その奥に不安の色があるのも、俺は見て取った。
「どうなの?」
美沙がもう一度聞いてくる。
俺は全てを話していた。
全てを聞き終えた後
「やっぱりあんたは、女の敵よ」
それだけ残して、美沙は部屋を出て行った。
和泉の気持ちに、美沙の気持ち。俺は二人の気持ちを痛い程に知っている。
一人になった俺は、小さく呟いた。
「女の敵か……。本当だよな」
出た声は、思った以上に弱々しいものだった。
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