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「陽平くん、何してるの?」
地面にうずくまる俺に、和泉が不思議そうな視線を向けて来た。
「心の友、蟻と二人だけの秘密の語らいをだな」
「何を馬鹿なこと言ってんのよ」
俺の言動に、美沙が呆れたように呟いた。
だって、本当のことを言える訳がないだろ。
実は二人のことが怖かったから、避難してた。
などと言えば、また面倒な騒動が起きるのは目に見えていた。
そんな事態になるぐらいなら、頭の多少おかしい可哀想な人だ、と思われた方がいくらかマシだ。
…………多分。
心の友との語らいを続ける俺の様子に、美沙がため息をつく。
「じゃあ、あたしは先に行くから。遅刻しないようにしなさいよ?」
「…………は?」
美沙の言葉に、俺は間抜けな声をあげた。
確かに言葉には出していなかったが、家の門の前で待っていた、ということは俺と一緒に登校するという意志表示じゃなかったのか?
俺は疑わしげな視線を美沙に向ける。
すると、美沙は明らかな侮蔑の視線をカウンターで返してきた。
「な、何だ?」
あまりの視線の痛さに、思わず腰が引ける。
「彼女が誘いに来てるのに、あたしと一緒に行くつもりだったの?」
「え、それは……ない……かな?」
「それぐらい、男ならすぐに察しなさいよね。全く……」
美沙はため息を一つ吐いて、それじゃ、と先に行ってしまった。
「私、絶対に陽平くんを渡す気はないからね」
「…………へ?」
美沙の姿が見えなくなると、不意に和泉がそんなことを言ってきた。
顔には厳し気な表情が浮かんでいる。
「さあ、私たちも行こうか。遅刻しちゃうよ」
それも一瞬、すぐに柔らかな笑みに変化した。
「あ、ああ」
その変化に戸惑いつつも、それだけをなんとか返す。
それでも満足したのか、和泉は笑みをさらに深くした。
「うん!」
和泉に手を引かれ、俺は学校へと向かった。
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