7167人が本棚に入れています
本棚に追加
「よう、遅かったな」
自分の部屋の扉を開けた俺を一番最初に出迎えたのは、亮の満面の笑みだった。
その背後に視線を向けると、不機嫌そうな表情でお菓子を貪る美沙とトカゲの姿。部屋の主が入って来たというのに、見向きもしない。
「お、お邪魔してます……」
次いで、遠慮がちな声が上がる。和泉だ。
和泉がいるだろうことは予測がついてはいたが、脱力感に見舞わられるのはどうしようもなかった。
「なんで和泉まで……」
そんな言葉がため息と共に漏れる。
「え、えと……伊達君に無理やり連れて来られて……その、ごめんなさい」
和泉がしゅんと頭を下げた。
その頭頂部に、安心させるように手を乗せる。
「気にするな。お前は何も悪くねえよ」
「……うん」
撫でてやると、和泉は嬉しそうに目を細めた。
不覚にも、愛おしさを感じてしまった。
「!」
不意に、背後から殺気が発せられる。
「和泉ちゃんに触れるなー!」
「陽平のスケベ!」
俺の存在を無視してお菓子に没頭していた二人が、急に激昂した。
「やかましい!」
「あっ……」
和泉の頭から手を放す。和泉が名残惜しそうな声を上げたが、構ってやる余裕はない。
……俺だって名残惜しいが、仕方ないんだ。
「で、亮。何を企んでいるんだ?」
飛びかかって来たトカゲを蹴り飛ばし、美沙が投げてくる物を避けながら、四人を俺の家に集めた真意を、亮に問い質す。
「企むなんて、人聞きの悪い!」
亮が非常に生き生きとした表情で叫んだ。
こいつは頭は悪いが、こういう悪巧みに関しては、なぜか頭が回る。厄介なことに。
「俺は、『譲れぬ思い! 河瀬VS沢木、陽平争奪戦!』の開催をここに宣言する!」
静寂が訪れた。
…………は? コノアホハ、ナンテイッタンダ?
理解したくないのに、徐々にその言葉の意味が脳に浸透して来る。
同時に目眩も進行した。
最初のコメントを投稿しよう!