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教室を覗く少女の姿を見た瞬間、俺は即座に机の下に潜り込んだ。理由? 言わずとも分かるだろう?
「あの子は、優花ちゃんじゃないか!?」
「知ってるのか?」
俺が聞かないので、代わりに亮が聞く。
「勿論さ! 彼女は、神谷優花(かみやゆうか)ちゃん。我が校一年のマドンナさ!」
「本当に詳しいな……」
「有名だぞ? 確かに成績は中ぐらい、運動神経なんか絶望的らしいけど、逆にそこがいい! それに、満開の花のように美しい笑顔! 和泉ちゃんの次のアイドルは彼女だと言われている程なのだ!」
トカゲの説明 ――というより演説―― が終わり、周囲から拍手が沸き起こる。男子のみの。
「まあ、確かに可愛い子だとは思うけどな」
そう言って、亮は視線を神谷に向けた。
「あ……」
亮と目が合い、神谷が小さく声を上げる。そして、トコトコとこちらに駆け寄って来た。
「おお、あの優花ちゃんが俺に……」
一人、有り得ない妄想を口走ってる奴がいるが、無視。というか、まだ鼻血出てるぞ。
こちらに駆け寄って来る途中で、神谷は机の下に隠れていた俺に気付いた。すると、彼女の顔にトカゲの評した満開の花のように美しい笑顔が浮かぶ。
俺は観念して机の下から這い出し、彼女に笑みを向けた。自分でも、顔の一部が引きつったような笑みになっているのが分かるが、仕方ないよな?
「や、やあ」
俺がそう言うと、神谷は急に俯き、体を震わし始めた。俺怒らした?
「ど、どうし……」
「せーんぱーいっ!!」
「いっ!?」
急に神谷が飛び付いて来た。不意打ちだったので、何の抵抗も出来ず、自分の机と爬虫類を一匹巻き込みながら、床に押し倒されることになった。
「離れろ!」
「先輩先輩せーんぱい!」
俺の抗議の言葉を聞かず、神谷は俺の腹に頬を擦り寄せる。ヤバい、これかなり恥ずい。それにこのままだと更にマズいことが……。
「おい、亮! 助けろ!」
「い・や・だ♪」
満面の笑みで言い切りやがった。
「今日、俺三発もお前から拳貰っちゃったし。だから、嫌」
こいつ、覚えてろよ。と言いたい所だが、そうも言ってられない。
「亮、謝るから頼む」
「まあ、そこまで言うなら……と言いたいけど、手遅れ」
「何……」
亮の言葉を意味を悟り、俺は教室の入口に目を向ける。そこには予想通り、鬼がいた。
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