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阿修羅――正義の神でありながら他の神と争う内に、赦す心を失い、ただ戦いのみを追い求めることになった悪鬼神。阿修羅を前にした者は皆、例外なく恐怖に震えるのだ。
何故いきなりそんな話をするのかだと? 俺の目の前に、阿修羅と化した少女がいるからに決まってるだろ!? しかも二人もだ!!
「和泉、美沙。ちょっと、俺の話を聞かないか?」
すりすり
「あんた本当にモテるわね?」
「陽平くん、私どうしても浮気だけは許せないんです」
すりすり
「いや、だから俺の話聞けよ!」
すりすり
「いったい、何人女作れば気が済むわけ?」
「浮気は裏切りです。決して許されることのない……」
すりすり
「だから、二人とも――」
すりすり
「――って、いい加減にしろよ!? 何時まで擦り寄せてんだ!?」
このままでは、マジで俺の命が危ない。俺は急いで神谷を引き剥がしにかかる――かかるが、剥がせない!
「え、マジで? この……」
トカゲの話によると、運動神経絶望的なんじゃなかったっけ!? それ以前に、ここらの不良の中で最強の俺が、全力を込めても離れないって、どんな馬鹿力だよ!?
「あーん、先輩だーい好き!」
うわあ、起爆スイッチ押しやがったよこの女。
俺の元に殺到する視線。男子からは嫉妬による殺意の視線。女子からも軽蔑の視線。
「お前、和泉さんという者がありながら……」
「私、松永君のことは信じてたのに!」
多数の罵詈雑言が容赦なく浴びせられる。俺段々不幸になってないか? それに、これ本来トカゲの役目じゃねえの?
そんな俺の胸中をよそに、視線の圧力は更に高まっていく。
タンッ
そんな中、突如一つの音 ――正確には二つの音が重なっている―― が響いた。それを聞き、教室が静まり返る。
俺は冷や汗を垂れ流しながら、音を発した二人の顔をゆっくりと見上げた。
「――――っ!?」
怖い怖い怖い怖い怖い! 和泉と美沙の顔がマジ怖い!
俺は目だけで、亮に救難信号を送る。俺ら程の仲になれば、わざわざ口に出さずとも、意思疎通が図れるのだ。
『マジで殺される! 俺はまだ死にたくない! 助けてくれ!』
よし、伝わったはずだ。おっ、早速亮が返事を返してきた。
『却下。巻き添えは御免だ』
この薄情者がああぁぁっ!!
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