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俺の上から降りた神谷……優花は、同じように屋上の床に、おあむけになって寝転んだ。
「おい、汚いぞ」
「いーんです。先輩とお揃いですから」
そう言って、また笑顔で笑う。その笑顔は本当に魅力的で、逆に俺の方が恥ずかしくなり、顔を背けた。そんな俺の様子に気付くことなく、優花は嬉しそうに笑い続ける。
「そんなに楽しいか?」
「はい!」
元気よく即答しやがった。ただ寝てるだけだぜ。しかも屋上の床に。俺にはそこまで上機嫌になれる理由が、全く理解出来ないな。
「私、こういうことをあまりしたことないですから」
「屋上で寝ることか?」
まあ、普通に学生生活送っている限り、めったにないはずだがな。
「それもそうですけど、誰かと何かすることが……です」
優花の顔に、僅かに悲しみの色が浮かぶ。まだ満面の笑みしか見たことのない俺は、その表情に胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「友達は?」
少し不躾な質問だったかもしれない。事実、優花の顔の悲しみの色は、より深くなった。
「友達いないんです」
衝撃的な告白……なのかもしれないが、俺の心に変化はなかった。俺には、答えがわかっていたからだろうか。
「私、頭も良くないし、運動も出来ないから、小学生の時、よく苛められてました」
「…………」
俺は黙って聞く。今は、口を挟むべき時でないから。
「自慢ではないですけど、中学生になって容姿が良くなりました。男子は、私の内面を見ず、外面だけで告白して来ました。更に、それが女子の反感を買ってしまいました」
優花が体を起こした。俯いて下を向き、両の拳をキュッと握り締めている。
「だから、今日先輩に助けてもらった時は、本当に嬉しかった。初めて人の温もりに触れた気がしました」
俺も体を起こし、隣りを見ると、優花の体が震えているのがわかった。その姿を見て、少し昔を思い出した。
相手のことを考えず、一方的な好意を寄せる異性たち。それを妬み、更に身の上のことを含めて、理不尽な暴力を振るう同性たち。それらのことに、必死で耐える一人の少年。
あいつと一緒か……。
そう考えた時、俺の口は勝手に開いていた。
「安心しろ。俺がお前の内面を見てやる。友達だからな」
そう言って優花の頭を撫でる。
「どうせなら恋人がいいです」
言葉とは裏腹に、優花は満面の笑みを浮かべていた。
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