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キーンコーンカーンコーン
屋上に寝転がっていると、五時限目開始五分前の予鈴が鳴った。その音を聞いて、優花が慌てて立ち上がる。
「次体育でした! じゃあ、先輩……」
「ああ、行って来い」
寝転がったまま、優花を見送った。走っていく時に、スカートが捲れて水色のパンツが見えたなんてことは、断じてない。
「俺もトカゲに毒されたか? なら、相当マズいな」
キーンコーンカーンコーン
そんなことを呟きながら空を眺めていると、本鈴が鳴ってしまった。
「しゃあない。五限目はサボるか……あ、昼飯食ってねえ」
あの騒ぎのせいで、昼飯を食い損ねたのを思い出した。どうにか昼飯を調達出来ないものかね。脳内シミュレーション開始。
コンビニに行こう→屋上から出る→廊下で先生とバッタリ→説教を貰いながら教室に連行される→THE END
駄目じゃん。今日は諦めるか。
俺は体を起こし、屋上の鉄柵近くに移動する。校庭では、体操服姿の女子がテニスをしていた。
「羨ましいね。俺らは今、器械体操だしな」
愚痴りつつ、視線を巡らす。すると、校庭の隅で小さくうずくまる一人の少女の姿が、目に止まった。
「優花……か?」
口から疑問の声が漏れる。優花の顔からは、今まで見せていた笑みが一片も残らず消え失せ、先程垣間見せたのより、更に深い悲しみの表情が浮かんでいた。
「お?」
その優花に、三人の女子が近寄って行く。彼女たちは何事かを言い、優花をコートへと引っ張り出した。
「友達……て訳でもなさそうだな」
優花がミスをする度に、彼女たちは大きな声で罵倒する。見ているだけで、ムカムカする光景だった。
「しかし……優花の運動神経は悪くないのにな」
動きを見ていると、きちんと走れているし、ボールも相手コートに打ち返せている。ただ、肝心な所で……
「きゃっ」
転ける。
これは、運動神経とかの問題じゃないな。それに、周りの女子が、優花のミスし易いように足を引っ張っているし。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、女子たちが引き上げていく。優花は俯きながら、最後尾を一人寂しそうに歩いて行った。
(…………よし!)
俺は一人決意し、屋上の扉を開け……
「陽平くん?」
「陽平♪」
「お手柔らかにお願いします」
「「却下!」」
鬼二人にぶっ飛ばされた。
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