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授業が終わり、トカゲを沈黙させてから俺は教室を出た。トカゲの存在は、優花のトラウマを刺激する可能性が高いからな。
そのまま真っ直ぐに昇降口に向かい、靴を履き替え、外に出た。校門に着くと、約束通り待っていてくれた和泉と美沙がいた。
「早いな」
「それは、他にもならぬ陽平くんのお誘いだから」
嬉しいことを言ってくれる。自然と頬が緩む。
「今回は特別だから」
と言って、美沙がそっぽを向く。が、頬を赤く染めながら言っても説得力がないぞ。
「じゃあ、帰ろうよ」
和泉が俺の腕を引いてきた。それを見て、慌てて美沙も反対の腕を掴む。途端に和泉が不機嫌そうになるが、今は無視。
…………罪悪感が半端ないが、心を鬼にして無視。
「二人とも、多分後一人来るから待ってくれ」
和泉と美沙が不思議そうな表情を浮かべた。
「伊達くん?」
和泉の言葉に、俺は首を横に振った。
「トカゲ?」
美沙が嫌そうに言う。気持ちはわかるが、そこまで邪険にしてやるなよ。
「亮は部活。トカゲは、まだアイツに会わせる訳にはいかないから、一時間程目覚めないように潰してきた」
俺のセリフに、美沙が呆れたようにため息を吐いた。
「潰してきた……って、あんたね」
いいじゃん、トカゲだし。
「陽平くん。それよりアイツって誰の」
「おっ、来た」
和泉が何かを言い切る前に、俺は目当ての人物を見つけた。言葉を遮られ、和泉が益々不機嫌になったようだが、気にしない。背中が冷や汗をかき始めたが、き、キニシナイ。
渋々、和泉は俺の視線を追い、一年の下駄箱へと目を向けた。そこには、肩を落とし、ゆっくりと歩いて来る優花の姿が。
「あの娘、昼休みの時の娘だよね?」
「見たらわかるだろ」
「わかるけど、雰囲気が……」
和泉の言いたいことはわかる。昼休みのハイテンションと、現在のローテンションのギャップが余りにも違い過ぎる為、同一人物と認識するのが躊躇らわれるのだろう。
「優花は、亮と一緒だから」
その一言で全てがわかったのか、美沙の表情が曇った。対して和泉は首を傾げている。
「おーい、優花!」
「え?」
俺の声に、優花が俯いていた顔を上げた。そして、俺の姿を視認すると、途端に満開の笑みを浮かべる。だが、先程の優花の姿を見ている俺たちには、その笑みは痛々しく儚いものにしか見えなかった。
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