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あたしは叫んだ。
でも、自分でさえ何ていったのか聞こえない。でも、落ち続けるのは嫌だった。浮遊感と一緒に恐怖が背中を駆け上がってきている。
「それならアリス。信じるんだ。地面はあるんだって。存在してるんだって。信じて、アリス。」
もう! 信じるってなんなのよ!?
半ばやけくそ気味に心の中で悪態を付くものの、それじゃあ、何も変わらない。結構落ちてるはずなのに真っ暗で底なんて見えないんだもの。
いいわよ、どうとなったって!
あたしは地面の上にいる。落ちてるなんてなんかの間違い!
目を閉じて強く念じた。それ以外考えないようにした。
すると足が硬いものに触れ、そして浮遊感も止まる。髪がぱさりと頬に触れた。
目を開けると元の場所に戻っていた。
あの白と黒だけが支配する森の中に。
そして、一際白いあの子供はあたしの正面に立っていた。
「ようこそ、アリス。世界は君が来るのを待ってたんだ。」
「あのねぇ……さっきからアリス、アリスってあたしは物語の登場人物じゃないんだから。人違いよ。」
手を差し伸べてくる相手に思わずため息交じりに言い返す。あたしはアリスなんて名前じゃないもの。
「人違いじゃないよ。君はアリスだ。白のアリス。君を待ってた。」
「違うったら! だいたいあたしの名前は……あれ?」
あたしは……誰だっけ?
名前、自分の名前がわからないってどういうこと?
色んな出来事は覚えてる。でも、出てくる名前の部分は空白。
思い出せない。あたしは、あたしなのに……。
「アリス。無駄だよ。ここで君はアリスなんだ。アリス以外の誰でもない。誰にもなれない。誰にも戻れない。」
頭を抱えてるあたしを見ながら淡々と表情も変えず猫がっぱの子は言う。それが妙に怖かった。
「あたしは、あたしよ。アリスじゃないわ。」
声は震えていた。全力で否定したかった。名前がわからないだけで記憶の中の自分が他人のように思えた。
「何も違うことなんてないよ。白兎を追ってこの世界へ来た時から君はアリス。君は白兎に導かれやってきた。この世界を元に戻すために。だから、アリス。他の誰でもない、君がアリスなんだよ。白のアリス。」
白兎? その一言にふっと、引っかかるものを感じた。最近見たような? ううん、最近なんてもんじゃない。
そう、ついさっきよ。
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