第1章 風

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 2002年、9月。 「じゃあ、ここを……Aine,please」 「はい」  高岡中学校2年E組の教室から英語の教科書を読む女生徒の明朗な声が聞こえる。  朝露を思わせる透き通った美声でほぼ完璧な発音をしてみせる彼女は声だけでなく、その容姿も美しかった。  肩より少し長い黒髪は絹のように滑らかで、その合間から覗く整った顔は大きく垂れがちな目が印象的だ。  巨乳で評判の(今日も谷間が見えるか見えないかの服を着ている)英語教師・三条は彼女の発音に満足なのかご機嫌な様子である。  三条に言われた箇所を読み終え着席した女生徒はその英語教師の視線が自分を通り越した所に注がれ、険しくなるのを感じた。 (あ、まさか……)  チラリと後ろの席を見ると悪い予感が的中していたのがわかった。  幼なじみの風間 神(かざま じん)は堂々と机に突っ伏し爆睡中だ。
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