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「……ごめんなさい。私、もう寝るわ」
言って、アテナはそそくさと奥へ行ってしまったので、アレンは心配げにそれを見送った。
「どうかしたのかな」
「おおかた、暴れ回ったせいで疲れたんだろ」
そのような雰囲気には見えなかったと思うが、アレンに思い当たるのはクロノスの言うことしかない。
「私も寝るとするか。君達も早く寝ておくんだ。明日に備えてな」
アテナを心配しつつ、三人も彼女に続いてベッドに入った。
「何だろ。眠れないな」
その夜、決戦前の興奮からか、アレンは寝付けず起き上がった。
「水でも飲んでこようか」
ベッドから降りて部屋を横切ろうとすると、窓のそばにアテナが立っていることに気付いた。じっと窓の外を眺めていて動く気配が無い。
「よう、お前も眠れないのか?」
アレンに気が付いて顔を向けたが、アテナはすぐに視線を窓の外に戻した。
「ええ、この先のことを考えると、少し……」
アテナは窓から月を眺めていたようだ。それは白く美しい光を纏い、漆黒の夜空の中に存在を主張している。
「この先って、戦いのことか? 大丈夫、俺がいるから!」
「違うの。ゼロサイドを封印した後のこと」
「……なるほど、全然考えてなかったな。アテナはどうするつもりなんだ?」
「私、城には戻りたくないな」
その言葉にアレンが顔をしかめる。
「アテナ、お前は王女なんだし、お前がいないと困る人が大勢いるだろ?」
「……ねぇ、ゼロサイドを封印したら、私達の旅は終わってしまうの?」
アレンを見つめるアテナ。その瞳は月明かりを反射して輝いているようだ。答えるのは忍びない。忍びないが、彼は黙っている訳にもいかなかった。
「そう、だな……。短すぎて全然楽しめなかったよな。黒き存在っていう邪魔も――――」
言い終わる前に突然、アテナがアレンに抱きついた。あまりに唐突で、一気に赤くなるアレン。
「えっ、ど、どうしたんだよアテナ」
触れるアテナの身体が熱い。いや、これはアレンが熱くなっているのか。
「私、もっと旅をしたい。アレンと一緒に、旅をしたい。ファレンシアに戻ったら、もうあなたと旅ができなくなる。そんなの嫌だよ……」
「……アテナ」
アレンはどうしたらいいのか、何と言葉をかければいいのか、解らなかった。
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