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「でかい、でかすぎる……」
すでに四時間は経っただろうか、二人は想像以上に巨大なグランディオブリッジを渡っていた。徒歩で渡る者は誰もおらず、大抵が馬車で、時折車輪が四個付いた鉄の塊(アレンは車を見たことがなかった)が通っていった。途中『現在二十五キロ地点 橋上都市ブリトンまで七十五キロ』という看板を見て二人はいっそう肩を落とした。
「橋の入口で配ってたパンフレットに書いてあったわ。ファレンシア大陸とクリミア大陸を繋ぐグランディオブリッジは、全長三百キロを誇る世界最大の橋である。百キロ、二百キロ地点にそれぞれ橋上都市があって、そこが休憩場所も兼ねているって。あと七十五キロもあるんでしょ? 誰か馬車か車に乗せてくれる人を探したほうがよさそうね……」
「おお! あれって車っていうのか!」
アレンは目を輝かせたが、打って変わってアテナはぽかんとしてアレンを見た。
「知らなかったの? 高価だから持ってる人は少ないけど」
「乗るなら車にしよう。ちょうど後ろから来るぞ! おーい、乗せてく……。るぉあっと!」
あまりに急に飛び出したので、アレンは危うく車に轢かれるところだった。
「……。車はやめましょう。通る数も少ないし」
「えぇー。車に乗りたかった……」
アテナは額に手を当てて呆れたという仕草をして見せた。
「子供みたいなこと言わないでよ」
アレンは渋々馬車に声をかけ始めた。
「乗せてくれー!」
馬車は通り過ぎた。
「なんの、次こそ!」
通り過ぎた。
「こ、こんどこそ!」
スピードを速めて通り過ぎた。
「逃げた? 次は絶対……」
「すみませーん」
アテナが声をかけると、馬車は止まった。
「……。ちくしょう、男ってやつは……」
「あーら、男って決め付けるのはいけないわよン、ボウヤ」
見ると、とびきり美人の運転手がクスクス笑っていた。しかしその美人も、厚化粧の賜物だとすぐに解った。もちろん口に出して言える訳は無かったが。
「どうしたの?」
運転手が訊いた。
「あの、橋を渡りたいんですけど、馬車に乗せてもらえませんか?」
「いいわよン、今ちょうど空いてるの。それにそこのボウヤ、あたし好みだし」
アレンはゾクっとした。この女運転手には、何か奇妙な雰囲気を感じた。しかし、アテナが顔をしかめている理由はそれとは違うようだった。
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