1630人が本棚に入れています
本棚に追加
今日も威勢のいい声が飛び交っている。長袖では少しばかり暑い陽射しの中、ファレンシアの人々は正午を迎えようとしていた。
「凄いな、あれがファレンシア城かぁ……」
ここファレンシア城下町にはあまりにも場違いな声が、人々の不審の目を引く。
ファレンシア大陸は他の大陸から離れており、これまで外界との接触は船でのみ可能だったが、つい最近、隣の大陸とファレンシア大陸を繋ぐ巨大橋『グランディオブリッジ』が完成し、陸経路でファレンシアに来ることができるようになった。
この男の名はアレン。ツンツンの髪の毛に、燃えるような瞳。彼が十八歳の誕生日を機にファレンシア大陸辺境の村、リベラからこの城下町まで来たのは、グランディオブリッジを渡り、行方不明の父親を探す旅に出るためである。
「それにしてもうるさいなぁ。俺の村はもっと静かだったのに」
田舎育ちのアレンには、城下町の賑わいが少しキツかった。大音声にクラクラしてきたので、商店街を避けて裏通りに入った。
とその時、向こうから猛スピードで走ってくる女性が見えた。高価そうな毛皮のフードを被り、ほとんど前を見ずに走っている。この暑いのに、フードなんかよく被っていられるな、とアレンは思った。
ゴツンと、火花が飛び出るほどに二人は頭をぶつけた。女性はあまりにも速く、避ける間も無かったのだ。その拍子にフードが脱げ、女性の顔が見えた。女性というよりは十六、七歳くらいの少女であり、滑らかな長髪が優雅に揺れる。少女はあっという間にフードを被り直し、驚いた様子を見せた。
「あ、あなた、大丈夫? 私とぶつかって平気なの?」
「お前、俺がどんだけ脆いと思ってるんだ?」
「本当に大丈夫……。いけない、追いつかれる!」
通りの向こうに城の兵士らしき人影が見える。すると少女はアレンの腕を掴んだ。
「ちょ、待っ……。なっ!?」
その瞬間、少女は十メートル以上跳躍しており、難なく屋根の上に着地してしまった。
「待てって! 追いつかれるって何だよ? なんで俺まで連れてくんだよ?」
「驚かないの?」
少女は目を見開いてアレンを見た。
「驚くさ。兵士に追われてるなんて」
「そうじゃなくて……。それよりも、行くわよ。捕まってしまう」
なんで、と訊くより早く、少女は再び猛スピードで走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!