運命の序曲 ‐Overture‐

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 今日も威勢のいい声が飛び交っている。長袖では少しばかり暑い陽射しの中、ファレンシアの人々は正午を迎えようとしていた。 「凄いな、あれがファレンシア城かぁ……」  ここファレンシア城下町にはあまりにも場違いな声が、人々の不審の目を引く。  ファレンシア大陸は他の大陸から離れており、これまで外界との接触は船でのみ可能だったが、つい最近、隣の大陸とファレンシア大陸を繋ぐ巨大橋『グランディオブリッジ』が完成し、陸経路でファレンシアに来ることができるようになった。  この男の名はアレン。ツンツンの髪の毛に、燃えるような瞳。彼が十八歳の誕生日を機にファレンシア大陸辺境の村、リベラからこの城下町まで来たのは、グランディオブリッジを渡り、行方不明の父親を探す旅に出るためである。 「それにしてもうるさいなぁ。俺の村はもっと静かだったのに」  田舎育ちのアレンには、城下町の賑わいが少しキツかった。大音声にクラクラしてきたので、商店街を避けて裏通りに入った。  とその時、向こうから猛スピードで走ってくる女性が見えた。高価そうな毛皮のフードを被り、ほとんど前を見ずに走っている。この暑いのに、フードなんかよく被っていられるな、とアレンは思った。  ゴツンと、火花が飛び出るほどに二人は頭をぶつけた。女性はあまりにも速く、避ける間も無かったのだ。その拍子にフードが脱げ、女性の顔が見えた。女性というよりは十六、七歳くらいの少女であり、滑らかな長髪が優雅に揺れる。少女はあっという間にフードを被り直し、驚いた様子を見せた。 「あ、あなた、大丈夫? 私とぶつかって平気なの?」 「お前、俺がどんだけ脆いと思ってるんだ?」 「本当に大丈夫……。いけない、追いつかれる!」  通りの向こうに城の兵士らしき人影が見える。すると少女はアレンの腕を掴んだ。 「ちょ、待っ……。なっ!?」  その瞬間、少女は十メートル以上跳躍しており、難なく屋根の上に着地してしまった。 「待てって! 追いつかれるって何だよ? なんで俺まで連れてくんだよ?」 「驚かないの?」  少女は目を見開いてアレンを見た。 「驚くさ。兵士に追われてるなんて」 「そうじゃなくて……。それよりも、行くわよ。捕まってしまう」  なんで、と訊くより早く、少女は再び猛スピードで走り出した。
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