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数分と待たず、二人は古ぼけた家に辿り着いた。複雑に入り組んだ裏通りの奥深くにそれは建っていた。
「入って」
少女に従い中に入ると、そこはまるで図書館のようだった。所狭しと本が並び、あらゆる分野に対応している。
「ふぅ、今日も無事に着けたわね……。それで、あなた本当に大丈夫なの?」
しつこいなとアレンが不機嫌そうに口を開きかけると、少女は慌てて付け加えた。
「あの、私ね、小さい頃から、身体能力って言うのかな、それが飛び抜けてて。理由は解らないけど……。あの速さでぶつかったら、普通はタダじゃ済まないはずなのよ」
「へぇ、俺と同じような奴がいたんだ。どうりで凄く速かったり、凄くジャンプできたりしたんだな」
「えっ?」
驚く少女に、明るく笑いかけながらアレンは説明した。
「つまり、俺もそういう奴ってことさ。理由は俺も解らないけどな。体は丈夫だし、あのくらいの衝撃ならどうってこともないよ。それより、お前は一体何者なんだ? 俺にしてみれば、兵士に追われてるってことのほうが普通じゃない」
「この王国の王女様じゃ」
突然背後から声をかけられ、アレンは驚いて飛び退き本棚で後頭部を強打してしまった。
「見たところ町の者ではなさそうじゃし、話してもよかろう」
そこには、白く長い髭を蓄え優しそうな眼差しを向ける老人、ファズが立っていた。
「王女だって!? 王女が何だってこんなところに?」
すると少女は大きく腕を広げ、天井を貫いて大空を仰ぐように顔を上げた。
「だって、王宮の中は退屈すぎるんだもん。城下町やこの家には、王宮には無い刺激がたくさんある。私は外を、世界をこの目で見てみたいの。王宮でただのうのうと暮らすなんてゴメン蒙(こうむ)るわ」
しばらくの沈黙が続いた後、少女は再び口を開いた。
「ところで、あなたはなぜ城下に?」
「ん? ああ、俺は旅をしてるんだ。って言っても、まだ始まったばかりなんだけど」
「今時、旅なんてしてるの?」
「父さん探し。俺さ、十歳以前の記憶が無くて、父さんがいなかったんだ。母さんも義母だって最近打ち明けられて、もう十八だし、あの田舎で暮らしていく気も無かったから、もし生きてるんなら父さんを探しに行こうかなって思ったんだ。手掛かりは俺が最初から持ってたっていう、この指輪くらいさ」
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