運命の序曲 ‐Overture‐

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 アレンは『Alen』と刻んである古ぼけた指輪を見せた。他にも文字が刻んであるようだが、かすれていてほとんど読めない。 「『Alen』、……っておかしくない? 普通は『Allen』じゃないかしら」  空中に指でスペルを書いてみせると、アレンは首をかしげた。 「そうなのか? じゃあ何か違う名前の一部なのかも。あっ、そういえば、お前の名前も聞いてなかったな」 「アテナ。アテナ・セレナードよ」  言って、アテナは微笑んだ。この時になってようやく、アレンはアテナの美しさに気が付いてドキッとした。まだ幼さが残るが、漂う気品はやはり王女である。 「私達、とっても似てるのね。私も小さい頃の記憶が無くて、お父様もお母様もいなかったの。それに、名前もあなたと同じように指輪に刻んであったのよ」  左手の中指にはめられている指輪を見せるアテナ。それはアレンの指輪にそっくりだったが、アレンの物ほど傷は付いていなかった。 「アテナ、王女なんだろ? 国王はお前の父さんじゃないのか?」 「私は養子なの。孤児院で暮らしてたって聞いたけど、その頃の記憶も無いわ。私を養子にするなんて、どうかしてるわ」  そう言って肩をすくめると、アテナは窓際まで歩き窓を開け放った。心地よい風が吹き込み、アレンの頬を優しく伝って流れていく。 「羨ましいなぁ。旅なんてできたらどんなに素晴らしいんだろ……」  澄み切った蒼い空を自由に飛び回る鳥達を、ぼんやりと眺めながらアテナは小さく呟いた。 「出ればいいじゃないか、旅に」 「無理よ。王宮を抜け出すのとは訳が違うのよ? 旅なんてどうしたらいいか……」 「そこでじゃ」  それまで黙っていたファズが、待っていましたとばかりに立ち上がる。 「アレン殿じゃったかな? アテナを一緒に連れていっては下さらんかのう」 「ファズさん、何を言うのよ!」  突然の話に慌てるアテナを見つめ、ファズはゆっくりと諭すように言った。 「ワシはの、アテナ、王女だからといって、国に一個人の自由を奪う権利などどこにも無いと思っておる。毎日ここに来て、叶わぬ願いと思いつつも外の世界に憧れ読書にふけるお前の姿を、ワシはもう見とうないのじゃよ」 「ファズさん……」
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