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二人は暗い地下道を歩いていた。明かりといえば手に持つランプの灯だけである。いよいよ二人きりになってしまった、とアレンはまたドキドキし始めた。何を話していいかわからず、二人は黙ったまま歩いていたが、先に口を開いたのはアテナだった。
「ファズさんはね、私が初めて城を抜け出した時に兵士からかくまってくれた人なの。私が王女だと知っても、兵士に突き出したりはしなかった。自分が捕まるかもしれないのにファズさんは、いつでもここに来なさいって、そう言ってくれたわ。迷惑だって解ってたのに、それからは毎日のようにファズさんのところへ行ったの。それでもファズさんはいつも笑顔で私を迎えてくれた……」
「優しい人だな」
「ええ……、本当に……」
揺れるランプの灯が、アテナの潤んだ瞳を照らし出す。アレンはまたしても言葉が出なかった。
十分ほど経っただろうか、まだもう少し道は続くようだった。気が付くと、地下道はごつごつとした岩肌が目立つ洞窟に近くなっていた。出口が近い証拠だろう。さらに歩き続け、少し道幅が広くはなってきたが、相変わらず洞窟が続いた。
その時、アレンは前方に黒い物体、否、人の形をしたものを捉えた。近づくと、それが黒いローブを着て立っている男だということが解った。目は淡いブルーをしていて、長い白髪で、まだ二十代半ばといった感じのハンサムな男である。
「誰だ?」
アレンが不審に思いながら訊く。
「この道は普通の人は知らないってファズが────」
「名前を聞いているのか? 存在の意味を問うているのか?」
その時点で、こいつは間違いなくおかしな奴だと二人は思った。
「私が何なのか、そんなことはどうでもよいのだ。運命の歯車は今まさに動き始めようとしている。だが気をつけろ。同じくして、奴らもまた動き出す。気をつけろ。奴らは指輪に惹かれる。奴らはいつも近くにいる。お前達の前にも、後ろにも……。気をつけろ……」
その瞬間、二人は背後に気配を感じた。人ではなく、動物でもない何かが後ろにいる。振り返るとそこにいたのは、目と口だけが不気味に光り、漆黒の体を持つ異形の存在だった。
「な、何なのこれ!」
恐怖で後退りしながらアテナが叫ぶ。
「お前達は問うことしか出来ぬのか? 答えを見つけろ。お前達は『指輪』に導かれし者なのだ」
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