運命の序曲 ‐Overture‐

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 その時、二人のはめていた指輪が、地下道全てを照らすかの如く眩(まばゆ)い光を放った。 「目覚めよ」  一瞬間アレンは、まるで光だけの世界に迷い込んだように感じた。しかし光はすぐに消え、そこは元の暗い地下道に戻っていた。何も変わったことは無い。唯一つ、指輪が消えていたこと以外は。その代わりに、右手にはクリスタルのように輝く剣が握られていた。アテナにも同じことが起こったようで、剣ではなかったが、出現した弓矢を唖然として見つめていた。 「一体何が起こって……!」  何が起こったのかを理解する前に、背後から異形者が飛びかかってきた。アレンが反射的に剣を振ると、異形者は見事に両断され、まるで分子分解されるように空中で消滅した。 「キャア!」 「アテナ!」  アテナはパニックに陥っているようだった。アレンはアテナに襲いかかる異形者を蹴りで吹っ飛ばしたが、異形者は何も感じなかったかのように起き上がった。 「奴らは指輪の力以外によって消えることはない」 「落ち着け、アテナ! 大丈夫だ、俺がいるから!」  その言葉にアテナは少し落ち着きを取り戻したが、まだこの異形者を相手にできるほどではなかった。  アレンは疾風の如く走り回り、次々と襲いくる異形者を流れるように蹴散らしていった。剣の軌跡が鮮やかで、決して素人の太刀筋ではなかった。アレンはこれまで剣など持ったことすらなかったのに、頭の中に流れ込んだかのように不思議と使い方は解っていた。 「何だろう、力が湧いてくる。それにこんな物、使ったこと無いのに……」 「全ては指輪の力だ。われわれは待っていた。五百年もの間、待っていたのだ。  ここに目覚めし其の心  絶へること無く導かれ  運命再び一つとなりて  我らがもとに集ふとき  大地還塵 天空崩堕  司偽の帝王 降臨す さあ、旅立つがよい。我々は再び会うことになろう。『指輪』に導かれて……」  そう言い残し、男は霧のように消え去った。同時に指輪も元に戻り、何事も無かったかのように光を失っていく。二人は今起こったことを理解しようと努めたが、どれだけ考えても何一つ解ることは無かった。  
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