運命の序曲 ‐Overture‐

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 アテナが脱走した後の王宮は、バケツをひっくり返したかのような大騒ぎだった。ほとんどの場合は脱走したその日に見つかって連れ戻されるが、今回は未だに見つかっていないからだ。王座に座る国王は、落ち着いた口調で兵士長に話しかけた。 「また脱走か……。しかも今回は随分とてこずっているようだな、兵士長よ」 「はっ、申し訳無いことでございます! アテナ王女様らしき人物をグランディオブリッジで見かけたという目撃情報が入っており、現在、兵を招集して向かわせるところです」 「そうか。ならば兵士長よ、これを持っていくがいい。役に立つはずだ」  国王は兵士長の手に摩訶不思議な球体を乗せた。どす黒いそれは、ほんのり温かかった。 「これは一体何でしょうか?」 「知らずともよい。それとも、私からは受け取れぬか?」 「め、滅相も無いことでございます! ありがたき幸せであります。私、必ずや王女様を連れ戻してまいります」 「期待しておるぞ」  国王に一礼し、兵士長は王座の間から出て行った。 「さて……。ここへは来るなと言ったはずだが?」 「おう、悪ぃな! だがよ、経過が知りたくてなぁ」  王座の背後に、鋭い殺気を放つ黒いローブの男が唐突に現れた。漆黒の髪の毛が天を突くかのように逆立ち、鋭く尖った目付きがその男をより凶悪に見せる。 「首尾はどうよ、王様?」 「上々だ」  男の問いに王が素気なく答えると、男は口が裂けたのではないかと疑うほど不気味に笑った。 「そりゃぁよかったぜ。やっとこの時が来たってワケだ!」 「解ったら失せるがいい。お前がここにいては目立ちすぎる」 「はいはい、わぁったよ」  男は闇の中に溶けるように消え去った。 「さて、どうなるか……」  王の目に、アテナなど微塵も映ってはいないのだった……。  
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