一年、三月

2/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
    風が、髪を揺らしてた。   朝、通学路の土手を、亮は一人自転車を走らせていた。 タイヤが石を踏む度に籠の中でリュックが跳ねる。 さっき跳ねた時に耳のイヤホンがずれたため、片手で操作しながら直す。 今日は遅刻気味だから、いつもよりスピードをだしてペダルを踏まなければならない。 高校の裏側に面する土手はいつもの時間なら沢山の生徒がいるが、今の時間帯はあまりいない。 静かな土手を無言で走らせながら、目の前にいる女子生徒を抜こうと横を通る。 すると―ガシャン!! 何事かと慌てて振り返ると、抜かしたはずの女子生徒が自転車ごと転んでいる。(ハァ!?何コケてんだよ!!) と内心愚痴りながら自転車を止め、スタンドを立てて近寄る。 「おい、大丈夫か?」 手をさしのべてやると、女子生徒は顔をしかめながらも亮を見た。 赤い指定のリボン。亮の学年色であるネクタイも赤いから、彼女も一年だ。 「あ、ありがとう…」手に捕まりながら立ち上がると、彼女の膝や手は赤くすりきれ、見るからに痛々しい。(うわ…俺のせいかな?) 彼女を立たせておいて、亮は彼女の散らばった鞄の中身を拾う。 「あ、いいよいいよっ!!」 と慌てたように彼女は手伝おうと屈むが、 「いたぁッ!!」 と膝をおさえる。 「いいから、先にチャリ立てて。一緒に保健室行くよ」 拾い終わった荷物を鞄に適当にしまい、ハイと手渡す。 「いいよ、一人で行けるから」 「どっちにしろ今の時間じゃ遅刻決定。保健室行ってましたっていったら免れるじゃん?」 とおどけて見せたら、彼女ははにかむように小さく笑った。   彼女は膝を少し引きずり、俺は横を歩く。 土手に、少しだけ暖かくなった風が駆け抜け、二人の髪を揺らした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!