一年、三月

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    鞄の中身を適当に入れたこと、少し後悔した。   教室に入ったとき、既に朝のHRが始まっていた。 担任に訳を話して席に着く。 「亮どうしたぁ?」 ふぅと息をはくと、後ろの席にの泰介が肩をつついてきた。 「朝チャリこいでたらさ、女子コケさせちまったんだよ」 リュックから筆箱を取り出して机に投げる。 「へぇ~、可愛い子だった??」 「まぁまぁかな。でも知らない女子だった」 「一年??」 「みたいだったなぁ」 何処のクラスかなぁと思案する泰介に、前の席で携帯電話をいじっていた伸也が振り向いた。 「隣の校舎だろ??文系のクラスあっちだし」 「だろうな」 ふぅん、と泰介が納得する。その後、伸也の携帯がブルルッと机の上で震える。 相変わらず、伸也の彼女の返信は早い。 「ンで、名前は?」 ずぃ、と身を乗り出す泰介。 「…聞いてない」 ハァ~!?と、いかにも期待外れだと言いたげな声で泰介が亮を非難する。 「お前バカ!?何で聞かねぇんだよもったいない!!」 「今俺は女に興味ない」 亮はさらりと返す。 「女は興味有る無しじゃねぇ!!」 「あ~ハイハイ」 まだギャアギャアとわめく泰介の声を受け流しながら、亮は伸也を見た。 彼女にメールを返す横顔はなんだか嬉しそうで、気のせいか、笑っているようにも見える。 その気持がわからない事はなかった。 そこまで考えて、亮は考えることを止めた。   教室に、先生が入ってくる。 この前実施された学年末テストの答案が返ってくる。 ザワザワと小声が合わさって雑音へと変わる声を聞きながら、窓の桟に肘をかけて外を見た。 見えるのは、土手。   名前も聞かなかった、少女のはにかんだ笑顔がふと蘇る。 あのとき、鞄に荷物を適当に入れたこと、少しだけ後悔した。
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