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鞄の中身を適当に入れたこと、少し後悔した。
教室に入ったとき、既に朝のHRが始まっていた。
担任に訳を話して席に着く。
「亮どうしたぁ?」
ふぅと息をはくと、後ろの席にの泰介が肩をつついてきた。
「朝チャリこいでたらさ、女子コケさせちまったんだよ」
リュックから筆箱を取り出して机に投げる。
「へぇ~、可愛い子だった??」
「まぁまぁかな。でも知らない女子だった」
「一年??」
「みたいだったなぁ」
何処のクラスかなぁと思案する泰介に、前の席で携帯電話をいじっていた伸也が振り向いた。
「隣の校舎だろ??文系のクラスあっちだし」
「だろうな」
ふぅん、と泰介が納得する。その後、伸也の携帯がブルルッと机の上で震える。
相変わらず、伸也の彼女の返信は早い。
「ンで、名前は?」
ずぃ、と身を乗り出す泰介。
「…聞いてない」
ハァ~!?と、いかにも期待外れだと言いたげな声で泰介が亮を非難する。
「お前バカ!?何で聞かねぇんだよもったいない!!」
「今俺は女に興味ない」
亮はさらりと返す。
「女は興味有る無しじゃねぇ!!」
「あ~ハイハイ」
まだギャアギャアとわめく泰介の声を受け流しながら、亮は伸也を見た。
彼女にメールを返す横顔はなんだか嬉しそうで、気のせいか、笑っているようにも見える。
その気持がわからない事はなかった。
そこまで考えて、亮は考えることを止めた。
教室に、先生が入ってくる。
この前実施された学年末テストの答案が返ってくる。
ザワザワと小声が合わさって雑音へと変わる声を聞きながら、窓の桟に肘をかけて外を見た。
見えるのは、土手。
名前も聞かなかった、少女のはにかんだ笑顔がふと蘇る。
あのとき、鞄に荷物を適当に入れたこと、少しだけ後悔した。
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