帰らずの海域

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 海の父親が失踪してから三年の月日が経過した。今でも海は防波堤で待ちたいのだが、二年十一ヶ月前に母親と一年待って帰らなかったらあそこで待つのは辞めると約束をして今は大人しくしていた。   「じゃあ母ちゃん。学校行ってくる」  身長が百七十cmに伸び、声も太くなり体格もがっちりと成長した海が玄関を出て島にある潮風学校に向かった。  学校と言ってもその規模は小さく、学習内容も中学三年までしか行われていない。  では高校は?という疑問が浮かぶと思うが、この島で子供は中学を卒業したら親の仕事を継ぐのが一般的でわざわざ他の島にある高校まで進学する者はほとんどいなかった。  海も学校を卒業すれば父親のやっていた漁師になる予定でいた。漁のやり方は小さい頃から失踪直前まで何種類も教え込まれ、記憶していた。船は自分で作ると言ったら父親の漁師仲間が余っている船をくれると言ったので継ぐ事自体、本人には問題なかった。  しかし母親はとても曖昧な気持ちだった。漁師の仕事をする事、それ事態は反対しない。ただ海が父親を追ってあの海域に行かないだろうか、という不安もあり心から賛成できるものではなかった。
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