新しい1日

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  体はまるで大きな埃の塊のように、細かく柔らかい毛でびっしりと覆われている。 真っ黒だが、何本も上に突き出している蜘蛛の足のようなものに、それぞれ小さな目がついていた。 伸びている様は蜘蛛の足のようだが、頭と思われる部分だけ少し膨らみ、体にしては大きな目が瞬きを繰り返していた。 そのうち何本かは瞬きもせず探るように悠太を見つめている。   「うわあ、何だコレ……虫か?」   悠太が恐る恐る手を伸ばすと、その生物は埃が舞うように飛びあがり、そのままゆっくりと地面へと落ちた。 落ちたと同時に、全ての目が悠太を凝視している。   (うわっ……頭、7本もある……)   7本の頭、14つの目玉に見つめられるとさすがに気味が悪くなり、悠太は少し後ずさりをした。   「びびってんのか?」 「餌、くれるか?」 「俺にも、くれるか?」 「腹へった」 「向日葵まずいからな」 「いや、前のやつもまずかったぞ」 「向日葵の屋敷はどこだ」 「さっきねずみ喰ったやろ」 「ダメだ親分に喰われてしもうた」 「ところで屋敷はどこだ」   頭はそれぞれに好きな言葉を話始め、会話のようでまったく会話になっていない。   喋れるが、知能は低いようだ。その情けなさに少し恐怖心が溶けていく。 悠太はしばらく話を聞いていたが、思い切ってその生物に声をかけることを決心した。   「あの……君たち、ここが何処だか分かる? 僕、初めてで分かんなくて」   言葉をかけてすぐに、悠太は自分に自信がなくなってしまった。   (何ですぐに気付かなかったんだろう……)   確かに藁にもすがりたい気持ちではあったのだろう。 しかし、この生物達に声をかけた所で助けてくれるとでも思っていたのか。 いくら自分の空想の世界だったとしても、もっと違う相手がいただろうに……と、悠太は心底後悔し、真剣に悩み始めていた。   何故なら、声をかけられた生物が一斉に喚き出したからだ。     「わしの名前はジギルじゃ!」 「わしもじゃ!」 「いや、それは俺の名前だ!」 「お前誰だ!」 「お前こそ誰だ!」   「……うるさいなーお前達……」   「何だこいつは礼儀がない、名をなのれ!」 「そうだ、わしはジギルじゃ!」 「だからジギルはわしやと!」 「ジギルだ!」   「……耐えられん」   「ところであいつは誰だ?」 「わしはジギルじゃ!」 「だからお前誰だ!」 「誰だ誰だ!」   「頭が割れそうだ……」
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