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「違う、違う。
わしは、ここじゃよ。」
次に声が聞こえたのは、自分の頭上からだった。
立ったままなのに自分の真上から声が聞こえてくる。
相当な身長があるか、空でも飛んでない限りありえない話だ。
地面から声がするのも薄気味悪いが、自分の真上から声がするのもやはり気持ち良いものではない。
裕太は声を探ろうと地面に向けた顔を、今度は空へと仰ぐ。
(……どうせ、また変な虫か動物だろう。
もう何でもいいけど)
悠太は溜め息まじりに目を細め、声の主の方へと顔を向けた。
しかしそこで目にしたのは、悠太が想像していたものとはだいぶ違っていた。
「何だあれ……」
裕太は誰に言うでもなくぼそっと呟いた。
目に飛び込んできたのは、空一面に広がる白い入道雲。
ただ一つ、入道雲にはあるまじき光景に悠太は息を呑んだ。
入道雲のはずのその白い塊は、一瞬爆発したかのように粉々に分散されたかと思うと、またすぐに一つの塊へとまとまっていく。
そしてそれは何度も繰り返され、分散すると同時に、雪のような灰のような物が次々と降ってきていた。
(来たばかりの時はただの入道雲で、何も降っていなかったはずなんだけど……)
悠太は、唖然としていた。
そしてその後もっと驚かされたのが、その灰だった。
雪のような灰のようなその丸い物体は、ゆっくりと舞いながら落ち、地面に落ちると、地面に付いた場所から段々と黒く染まり始める。
そして一番てっぺんまで黒く染まりきると、今度はてっぺんにあたる部分から無数の黒い芽が出てくる。
無数の芽は少し伸びると真っ黒な丸みを帯びた蕾になり、やがて蕾から二つの目玉が開かれるのだ。
そう、それはまさしく、ジギルの大量発生とでも言おうか。
良く言えば、奇跡の生物の誕生の瞬間だ。
よく考えようが悪く考えようが、今の悠太には衝撃が強すぎたようだ。
悠太は少し目眩を覚えながらも、その場に立ち尽くすことしかできないでいた。
ジギルはそんなことお構いなしとばかりに、四方八方から声をかけてくる。
ある時は頭上から。
ある時は足元から。
ある時は草の中から。
この状態では、冷静になれるものもなれなくなってしまう。
悠太はすでに頭が回らなくなり、目の前で起こっている出来事を、ただ見届けることしかできなかった。
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