新しい1日

6/9
前へ
/31ページ
次へ
  「違う、違う。 わしは、ここじゃよ。」   次に声が聞こえたのは、自分の頭上からだった。 立ったままなのに自分の真上から声が聞こえてくる。 相当な身長があるか、空でも飛んでない限りありえない話だ。 地面から声がするのも薄気味悪いが、自分の真上から声がするのもやはり気持ち良いものではない。   裕太は声を探ろうと地面に向けた顔を、今度は空へと仰ぐ。   (……どうせ、また変な虫か動物だろう。 もう何でもいいけど)   悠太は溜め息まじりに目を細め、声の主の方へと顔を向けた。 しかしそこで目にしたのは、悠太が想像していたものとはだいぶ違っていた。   「何だあれ……」   裕太は誰に言うでもなくぼそっと呟いた。   目に飛び込んできたのは、空一面に広がる白い入道雲。 ただ一つ、入道雲にはあるまじき光景に悠太は息を呑んだ。   入道雲のはずのその白い塊は、一瞬爆発したかのように粉々に分散されたかと思うと、またすぐに一つの塊へとまとまっていく。 そしてそれは何度も繰り返され、分散すると同時に、雪のような灰のような物が次々と降ってきていた。   (来たばかりの時はただの入道雲で、何も降っていなかったはずなんだけど……) 悠太は、唖然としていた。   そしてその後もっと驚かされたのが、その灰だった。 雪のような灰のようなその丸い物体は、ゆっくりと舞いながら落ち、地面に落ちると、地面に付いた場所から段々と黒く染まり始める。   そして一番てっぺんまで黒く染まりきると、今度はてっぺんにあたる部分から無数の黒い芽が出てくる。 無数の芽は少し伸びると真っ黒な丸みを帯びた蕾になり、やがて蕾から二つの目玉が開かれるのだ。   そう、それはまさしく、ジギルの大量発生とでも言おうか。 良く言えば、奇跡の生物の誕生の瞬間だ。   よく考えようが悪く考えようが、今の悠太には衝撃が強すぎたようだ。   悠太は少し目眩を覚えながらも、その場に立ち尽くすことしかできないでいた。 ジギルはそんなことお構いなしとばかりに、四方八方から声をかけてくる。   ある時は頭上から。 ある時は足元から。 ある時は草の中から。   この状態では、冷静になれるものもなれなくなってしまう。 悠太はすでに頭が回らなくなり、目の前で起こっている出来事を、ただ見届けることしかできなかった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加