25人が本棚に入れています
本棚に追加
「小僧、どこ見ちょる」
「腹減ったー腹減ったー」
「なんだこれ、向日葵よりデカイな」
「ちょっと、邪魔だよ」
「あああ!飯だ!!」
頭上から降ってくるジギルは、瞬く間に数を増していく。
悠太の足の周りや向日葵の葉の上は、黒い埃が積もっていくように覆われていった。
(ヤバイ……)
逃げ場を失って固まっていると、遠くから口笛を吹くような高い音が聞こえてきた。
自分のペットを呼ぶような、そんな音だった。
悠太はあまりの数のジギルに怯えながらも、音が鳴る方へと顔を向ける。
何でもいいから、とにかくこの場から助けてほしかったのだ。
誰かいるのなら、今すぐにでも殺虫剤を撒いて欲しかっただろう。
しかし現実はそうは上手くいかない。
音がした方には頼りになりそうな人はおらず、今度は何とも言えないような鳴き声が聞こえてきた。
それは凄まじいスピードで、悠太の方へと向かっているのだ。
「ちゅわちゅわちゅわちゅわちゅわちゅわちゅわちゅわ……」
幾つもの黒い塊が、聞いたこともない鳴き声を上げながら突進してくる。
「うわあぁっ!」
悠太は猛突進をしてくるその物体を確認することなく、顔を手でかばうように覆った。
何なのか確認したかったが、それよりも瞬発的に体が身を守る方を選んだのだろう。
悠太はコウモリの大群が押し寄せてきたような恐怖感に身を伏せ、ひたすらその物体が去っていくことを願った。
その物体は、バサバサと羽を擦るような音をたてながら、突風と一緒に悠太の周りを猛スピードで通り抜けていく。
悠太は顔を足の間に埋め、手を顔から耳に移動させて塞いだ。
バサバサバサ……
悠太は一瞬背中に強い衝撃を受けたのを感じた。
(怖い……怖いっ。
何なんだ、頼むから早く、行ってくれっ!)
悠太は動くことなく、恐怖に涙ぐみながらも、必死に頭の中で願掛けをしていた。
それが叶ったのか、突風と共に妙な鳴き声の軍団は段々と通り過ぎていく。
それはたった数秒間だったが、悠太にはまるで何時間も経ったように感じていた。
(何が見えるかなんて考えたくもない……)
悠太は固く閉ざした目をほどくように、恐る恐る開く。
ゆっくりと視界は開かれていき、やがて、その光景が明らかになっていった。
最初のコメントを投稿しよう!