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……そこには、悠太が想像していたような、ジギル達や荒れた風景はなかった。
悠太の目の前には、さっきと何ら変わりのない、爽やかな景色が繰り広げられていたのだ。
それは綺麗すぎるほど、爽やかな光景だった。
一帯を覆うようにいたジギル達の姿はどこにもない。
来た時のままの、向日葵と、太陽と、風の音だけだ。
悠太は言葉を失い、しばらくその場にしゃがみ込んだまま動けなくなってしまった。
まるで何事もなかったように、向日葵達は陽気に歌い続けている。
悠太が呆然としていると、背中の方から「ちゅわ……」と奇妙な声が聞こえてきた。
流石に驚き慣れはしたものの、何か嫌な予感がして、悠太はゆっくりと振り返った。
背中の後ろ側だった場所に、立派な羽を生やした、小さな……ねずみが転がっていた。
ねずみと言っても、目は緑色、毛は白銀、手や足は鷹のような爪があり、獲物を捕らえられるのには便利そうだ。
(何だ、小さいな……)
悠太は悠長に考えながらも、じっとそのねずみを観察していた。
ねずみは悠太の背中にぶつかった衝撃で、頭が回っているようだ。
たまに足や手が少し動くが、起き上がるほどではない。
(……。
こんな所に倒れてたら、危ないよな)
悠太は優しくねずみを抱き上げると、毛をゆっくりと撫でながら少し微笑んで呟いた。
「もう、
大丈夫でしゅからねぇー?」
悠太は……女の子よりも、動物に弱いのだ。
聞いたこともないような甘い猫撫で声を出し、ねずみを思う存分撫でていた。
ただ、悠太はこの世界の異様さを、まだちゃんと理解しきれていなかった。
いや、理解した所で分からなかっただろう。
何処まで自分の常識で考えても大丈夫なのか、悠太は後に慎重に考えるようになった……
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