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悠太はまだ目を回してるであろうネズミを、自分のポケットにそっと入れた。
爪が刺さらないように少し丸まった形で、羽まで綺麗に入ってくれたので落ちる心配もないだろう。
悠太は優しく微笑み、ポケットから見える白銀の柔らかい毛を優しく撫でた。
「向日葵、探さなきゃな……」
もう一度周りを見渡したが、少し前には一面覆うようにいたジギルはやはりどこにも見当たらない。
悠太はジギルがいなくなったことで安堵し、ネズミと言えど小さな命を持った仲間を見つけたことで、一筋の希望が湧いてくるのを感じていた。
(何故、なんてここでは通用しないんだろうな……。
考えても始まらない。
考えても終わりもしない。
当たり前なことでさえ難しい僕だったのに、こんなことが理解できるはずがない。
……それに、僕は理解しちゃいけない気がする)
思い立ったように、悠太は力強く足を前に踏み出した。
力強く、噛み締めるように一歩一歩ゆっくりと足を運ぶ。
どこへ向かえばいいのか分からないはずなのに、悠太が進む先にはいつも風が吹いていた。
まるで風達が悠太とじゃれ合いながら『こっちだよ』と言わんばかりに、背中を押していた。
優しく穏やかに吹くと思えば、急に手や足に空気砲でも飛ばしているかのような突風があたってくる。
でも常に、ネズミの入ったポケットには風が当たっていなかった。
横をすれ違う向日葵達は、少し不思議そうにして悠太のポケットを覗こうと茎をしならせている。
向日葵と風に囲まれながらも、悠太は導かれるようにと歩き続けた。
(時間も距離も分からないし、ひたすら歩くしかないか……)
そんなことをぼんやり頭で考えながら、悠太は足が向くままに、更に歩き続けていった。
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