つまらない日常

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    「悠太ちゃん」     優しく呼びかける、少し高めの声に反応するように、彼は重たい瞼をゆっくりと開いた。   陽の光が目に入り、悠太は深々とお辞儀をするように瞬きをする。   朝を示すその輝き。   当たり前の毎日、当たり前の日常。   だが、悠太にとってその暖かい陽は、どんなに美しい女性の微笑みよりも安らぎをもたらしてくれていた。   「おはよう悠太ちゃん、今日もいい天気ね」   優しい母親のような声には似合わない、丸々と幼い顔をした彼女は、今しがた開いたカーテンを脇のフックに繋ぎ止めていた。 そのカーテンは風ではためくたびに、古臭い香りを放ち悠太の鼻をかすめていく。     この部屋の壁には幾つかの絵画が飾りつけられている。 そしてその全ての絵に大きな向日葵が描かれていた。 絵の中では、陽に射されて気持ちよさそうに太陽に向かって咲き誇っている。   その情景はとても爽やかだったが、悠太にとっては不愉快な物の一つでしかなかった。   ……自分はこんなに狭い薄汚れた箱の中に閉じ込められているのに。 彼等は悠然と、この部屋の配色には似つかわしくないほど、鮮やかに咲き誇っている。   まるで自分が王様だと言わんばかりに……     カーテンを繋ぎ止め終えたのか、優しい声の彼女は悠太の寝ているベッドに近づき、端にちょこんと腰掛けた。 そして悠太の目線を追うように向日葵の絵に目を移し、笑顔で話始めた。   「悠太ちゃん、また絵を見てたのね。 まぁ、本当に綺麗だものね。 悠太ちゃんは向日葵が好きなんですって? お母さんがね、『悠太ちゃんは向日葵が大好きなんです』って、たくさんの絵を持ってきてくださったのよ……。 本当は、本物のお花がよかったんですけどね……。 でもこんなに綺麗なんだもの。 悠太ちゃん、よかったわね」   白い服に包まれた幼顔のその女性は、悠太の顔を見て優しく微笑んだ。
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