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悠太はただひたすら歩き続けていた。
いくら歩けど、見渡せば一面向日葵畑。
上を向けば、どこまでも果てしなく続く透き通った空。
耳を傾ければ、いつまでも終わることのない向日葵の歌声。
きっとこんな観光名所があれば、誰もが絶賛するだろう。
素晴らしい景色に愉快な合唱……
もしあるなら、是非世界遺産に残してもらいたいような場所だ。
しかし、それは悠太にとって絶望でしかなかった。
どんなに歩こうと、いつまでも変わらない景色。
疲れてる体には耳障りでしかない大きな歌声に、眩しい太陽。
極度の疲労と日照りにより、悠太は朦朧とし始めていた。
(できるものなら静かで暗くて狭い部屋で、ゆっくりと横になりたい。
けど、僕はずっとそこに居た気がする。
二度と戻りたくなかったような気さえする。
そんな訳ないのに。
何故か……何故か、それが凄く懐かしい)
段々と、悠太は足枷がついたように動かなくなっていく。
ふとポケットにいるネズミに目をやると、いつの間にか寝息をたてて体を小さく上下させていた。
よほど疲れていたのか、意識が戻ってもそのまま寝入ってしまったようだ。
悠太は思わず笑みをこぼした。
その緊張感のない姿に癒され、ネズミの柔らかい毛を指先で優しく撫でた。
それからもしばらく歩いていたが、額から汗が流れ落ち始め、自分の限界を感じた悠太は丁度近くにあった切株に腰を下ろした。
「はぁ……。
もういい加減、何かあってもいいだろう。
家とか、店とか……
なさそうだから、山小屋とか?
何にしても、もう勘弁してくれ」
話相手がいないので、悠太は誰に言うでもなく呟いていた。
悠太は心身共に限界だったのだろう。
足の裏は痛みと共にじんわりと痺れ、身体は切株に根が張ったように重く動かなくなり、顔や頭からも汗が止まることなく滲み出て流れ落ちている。
時間が分からないのでどれだけ歩いてきたかも把握できなかった。
切株に座ってからというもの、風達は遊び相手がいなくて寂しくなったのか、しきりに悠太の足の間を駆け抜けていた。
まるで、『早く歩け』と言わんばかりに、まとわりつくように。
顔、体、足と、色んな所にまとわりつき、冷たく強かった風は、次第に暖かく心地よい風に変わり体を覆い始めた。
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