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悠太は風達の変化に気付かず、ただぼんやりと地面を見下ろしていた。
疲れていたせいか、なんとなくこの場所が居心地良く、心から満たされていくのを感じた。
風はゆっくりと悠太の体を包むように流れ、囁くように髪をなびかせている。
少しずつ向日葵の耳障りな音楽が遠くなり、視界もぼやけていた。
もう悠太の耳には、ネズミの小さな寝息しか聞こえてこない。
優しく、弄ぶように風は流れ続ける。
熱く輝き続けていた太陽も、何かが遮ってくれているのか、不思議と柔らかい光に変わっていった。
風は、いつまでも悠太から離れはしない。
悠太は、静かに瞼を閉じた。
──
どれくらいたったのだろうか。
気付けば悠太は切株の脇に転がるように寝ていた。
「あいたたた……」
悠太はゆっくりと上半身を持ち上げ、重い瞼を擦って大きな欠伸をした。
まだ朦朧としている脳に刺激を与えるため頭を振り、瞬きを繰り返してから辺りを見回す。
眩しい陽射しのせいで瞼は開くことを拒む。
それでも必死に瞬きをし、周りの様子を伺った。
正直、何かの変化を望んでいた悠太は、あまりの景色の変化のなさにうんざりとした。
向日葵の歌に当分終わりは来ないようだ……。
悠太は諦めて大きくため息をつき、地面から腰を持ち上げようとしたその時だった。
(……あれ?
何かいつもと違う)
急に自分の身体に異変を感じ、動きが止まる。
違和感を探るため、自分自身の体をじっくりと観察し、両手を前に突き出した。
「……手、腰、いや……足も軽い?」
そうポツリと言うと、今度は一気に立ち上がり、足を動かしてみたり、手や首を動かして軽い屈伸運動を始めた。
悠太が感じた通り、普段より体がとても軽い。
それどころか、軽く跳び跳ねただけでどこまでも飛んでいけそうなくらいだった。
悠太は何故か、段々と自分の脈が早くなるのを感じていた。
(まるで……まるで、羽になったような気分だ。
でも、もしかしたら、まるでじゃないのかも)
少しおどけながらも、悠太は高鳴る胸を抑えつけ目を閉じた。
けれど興奮は収まらず、もっと感情は高鳴っていく。
まるで麻薬でも使ったかのように、悠太は身心共に急変していった。
起きたばかりにも関わらず目も頭も冴えきり、何かに催促されるように体が火照り始める。
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