25人が本棚に入れています
本棚に追加
(体が軽い……。
今なら、どこまでもいける気さえする。
……いや、きっと行ける)
もう悠太を止めることは誰にもできないだろう。
軽く弾むような体と共に、悠太の心も弾み始めていた。
自分でもついていけないくらい、力強い感情がふつふつと沸き上がってくる。
悠太は何も考えていなかった。
何も考えていないと言うよりも、冷静な考えより勝手に燃え上がる感情に支配されていたのかもしれない。
そこには、いつもの少し冷めた、けれど気の弱い悠太はいなかった。
(俺は行ける)
次の瞬間、悠太の視線は空中へと移り、自分の出せる限りの力で、地面を思いっきり蹴り上げた。
青空を羽ばたく鳥のように。
ゆらゆらと舞う蝶のように。
悠太は心の羽を力いっぱい伸ばし、羽ばたかせたのだ。
──
悠太は病院に入院してからというもの、自分を守る為に常に殻に閉じ込もるようになっていた。
昔は違ったのだが、病気が彼を変えてしまったのだ。
昔の悠太は明るく元気で無邪気で、人一倍熱い心を持った少年だった。
……悠太を変えてしまったのは、"名のない病気"だった。
病気にかかってから、信じていた友達や家族、周りの環境も、全て変わっていく。
そして狂っていってしまう。
その時間の流れの中を過ごし、悠太の信じていたものは少しずつ崩れ落ちてしまった。
……そして、悠太は自分を失っていった。
なるべく人から離れ、目立たないように静かに過ごしていたい。
その思いは皮肉か、病気のおかげで叶ってしまった。
周りから隔離されてからは、冷えきった病院で何をするでもなく毎日を過ごしていた。
毎日何も変わらず、同じことを繰り返す日々が続く。
夢や希望は叶うどころか、口にすることさえできない。
ただ絶望ばかりが浮かんでは消えた。
そしてその先に行き着く時、悠太は何も感じなくなってしまった。
無心……という言葉が一番近いのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!