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美和はセミの鳴き声に導かれながらも、ゆっくりと足を運んで行く。
103104105……
奥へ奥へと進み、やがてその鳴き声が止まったころ、美和はその部屋へとたどり着いた。
「109号室……ここって確か、煩いおばさんと痴呆症のお爺さんが居る部屋よね」
この部屋に居る患者は『109の住人』と呼ばれ、看護師内でも少し有名だった。
口煩く、好き嫌いが激しくて人をも選んでしまう中年女性。
どこか抜けていて、何を考えているかさっぱり分からないが何故か憎めない、老人男性。
個人で見ると普通の患者だが、有名な理由はこの二人の変わった習慣にあったのだ。
美和はドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開く。
もし寝ていたりしたら申し訳ないし、何よりも怒られるのはうんざりだった。
美和は一息つくと、そっと足を踏み込ませた。
時計の針は12から少し過ぎた場所を指している。
部屋の壁に飾られた太陽の絵は、カーテンのひかれた窓から漏れる光を吸い込み、まるで輝いているように映っていた。
美和は恐る恐る足を進め、全体を把握すると共にセミの姿を見つけ出そうと目を張り巡らせた。
部屋の中にはベッドが四台置かれ、その二台の間には薄いカーテンがひかれている。
もちろん片方に中年女性、片方には老人がいるのだが……
美和が確認するまでもなく、ベッドからはすやすやと心地良い寝息が聞こえてくる。
美和は時計を確認し、片方の眉を少し釣り上げた。
「まだ12時過ぎなのに……」
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