つまらない日常

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  向日葵の花びらを目にした悠太はその場に固まってしまった。 看護婦は不思議そうに花びらをしばらく見つめると、軽く溜め息をついてから食事の用意を始めた。 けれど、どうしても花びらのことが気になったようで、花びらを持ち部屋から出ていった。   悠太は看護婦が部屋から出て行くのを見送り、残った食事の台をぼんやりと見ながら、自分に少し希望が湧いてくるのを感じていた。   (やっぱり……もしかしたら……)   悠太は目を向日葵の絵に移し、じっと見つめ始める。 一点をただひたすら、目が痛くなるくらい凝視する。 悠太にはもう周りの景色は見えていなかった。   すると、ゆっくりと…… ゆっくりと向日葵達が額縁の中で動きだした。   向日葵達はそれぞれ自分の部屋でくつろぐように動いている。 ある向日葵は太陽を回し、明るさの調節をしている。 ある向日葵は自分の葉がどうも気に入らないらしく、水を吹き掛けたり虫をとったりしながら試行錯誤をしているようだった。   そして……   向日葵の絵のうちの一枚だけ、他とは違い不思議な行動をとっていた。 その向日葵は、まるで悠太に何かを訴えるように、ただじっと、たたずんでいる。   (あいつ…… 何か伝えたいのかな?)   悠太は答えるように、まるで見つめ合うように、その向日葵を見つめた。   しばらくすると、その向日葵から一枚の花びらが落ち、絵の中からフワリと病室の中へ飛び出してきた。 花びらはゆっくりと空中を舞うと、右往左往しながら、悠太のベッドの上へと舞い降りてくる。   (あれ…… この感じ、どっかで……)             「おいで」           (え?)   「ぅわっ」       声の宛を探すヒマもなく、悠太は明るい閃光のようなものに視界を閉ざされてしまった。
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