つまらない日常

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  ──   「悠太君お待たせー! やっぱりあの花びらどっから来たのか分かんなかっ……」   職場の仲間に花びらのことを聞き、答えが出ることなく病室に戻ってきた看護婦はその光景に息を詰まらせた。   「何なの……これ……。」   部屋は向日葵の花びらで埋めつくされ、向日葵の絵だったはずの額縁の中には太陽だけが残り、ベッドは何十年も使われていたように汚れ錆びていた。   「……悠、太……君……?」   ……。   悠太からの返事はない。 もし悠太が居たとしても、彼がしゃべることができないのは分かっていた。 しかし、この異常な光景を理解できない状態で、冷静な判断はできない。 看護婦はしばらく固まり、その光景を理解するために頭を精一杯回転させた。   「……。     …………。   きゃあぁぁあぁっ!!」   少し冷静になり頭で理解できた所で、看護婦は悲鳴をあげると逃げ出すように病室の外へと駆け出した。       ── 瞬く間に病院内はパニック状態に陥っていく。 噂は噂を呼ぶ。 ……看護婦の悲鳴、向日葵の部屋、残された絵画。 退屈な病院生活の中で、この事件は患者にとっても、看護婦や医者にとっても新鮮なでき事だった。   数時間後には、隣の病棟までもがすでにその話題で持ちきりになっていた。     「ねーえ、あんた聞いたぁ? 呪われた部屋の話よ。 看護婦が行方不明になって、後には向日葵と大量の血が残されてたんだってえ! この世の中も物騒になったわねえ。   嫌だ嫌だ!」   太った白髪の中年女性は、耳障りな声を張り上げた。
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