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「ただいま。」
誰も居ない家に帰り、なかば習慣になっている「ただいま」の声が響く。
静寂に負ける前にテレビを点けて。
何気ないニュースをみて一日を終えるはずだったのに、
どうして今頃、君のことを思い出すのだろう。
ニュースキャスターが淡々と今日の出来事を話し、
僕は思考の海を漂い、思いふける。
テレビに思いが伝わったのかの用に、子供のころ暮らしていた町が映る。
今日のトップニュースとして取り上げられたダム開発工事と反対する地域住民の衝突をながしていた。
その様子を2、3分観て、僕はまた思考の海を漂い始める。いつの間にか海に沈み忘れ去られた深海にたどり着く。
心地のよい深海には一人の女の子がいた。
女の子は君なんだろう。
何か忘れられていた気持ちをそこに見つけ、僕はいてもたってもいられなくなった。
「・・・」
「・・・・」
僕は気が付いたら電車に乗っていた。
窓に映るものが過去へとさかのぼるようにみえた。
いつの間にかテレビに映っていた町、僕の故郷についた。
知合いも居ないこの故郷を懐かしむのも無いはずなのに、足は昔住んでいた家へと向っていた。
夢遊病患者のように彷徨いながらも、家についた。
そこには変わらない外観だけど長い間使われていない、気配を感じない寂しさに埋もれかけていた。
僕は家に入る。
家の中は埃が積もり長い間使われていないことを裏付けている。
自分の部屋に行きそこにあったひとつのノートを見つけた。
絵日記のようなそのノートを開ける。
ページをめくり内容を見て僕はまた深い海へ沈む。
女の子が笑って隣には僕がいる。
「・か・・行く・・」
心の中でわだかまったままの声が聞こえる。
思い出さなければいけない気がする。
僕は自己催眠をするように過去にさかのぼっていった。
「必ず迎えにいく、まってて。」
僕はずっと夢を見ていたのか、僕の中にある全てが覚醒されて走りだす。
家に積もった埃を巻き上げ、自分の忘れていたことの重大さを振り切るように。
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