誘惑

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そう言ったエリーの話についていけない様で、透は難しい顔をした。 「つまり君は、クリスと俺が離れる事を望んでいる、と…?」 「そうよ。そうすれば、クリスはイヤでもあっちに帰らなければいけなくなる。吸血鬼の契約者はこの世でただ一人。その人間に契約を解除されれば、吸血鬼はまず人間界では生きられない。望んで不味い血を飲む吸血鬼はいないからね」 そんな事を言いながら癖の笑みを見せるエリーに、透は顔を歪めた。 「…悪いけど、その話、断るよ。君に言われたからと言って、俺達はそう簡単に切れる関係じゃないんだ」 そう言って席を立った透に、エリーは聞こえない様に小さなため息を吐き、外に出ようとする透の腕を掴んだ。 「まだ何か──…」 「これは使いたくなかったのだけど…。まさか、貴方もクリスと同じ頑固だとは思わなかったわ…」 そう言ったエリーの目は、先程の碧眼ではなく、まるで血の様に真っ赤になっていた。 「貴方は、クリスに契約を解除すると言うの。私の命令は絶対よ…。良い…?」 腕を掴みながら、エリーは透の目を見つめている…。 そして、それを聞いた透の目は、何も映していないかの様にぼやけ、エリーの言葉に頷いた。 「…それで良いわ。‥行きなさい」 そう言うと、エリーは口端に笑みを浮かべ、透の腕を放した。 「これで、クリスは帰って来る…」 そう、呟きながら…。
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