964人が本棚に入れています
本棚に追加
/390ページ
「阿狼は巫女様には優しくするのですね」
夜雷彦はからかうように言うとクスクスと笑った。そんな夜雷彦のからかいに赤面した阿狼はそれを否定するように軽く怒ってみせる。
「なっ……、夜雷彦! おかしなことを言うなっ」
必死になればなっただけ怪しまれるというのに阿狼はむきになっているようだ。
「隠すな隠すな」
風如はそう言うと阿狼の背中を軽く叩いて笑う。
「……まったくっ」
阿狼は顔を真っ赤にさせたまま足早にその場を離れて行ってしまった。ここに居ては風如と夜雷彦にいじめられていると兵士に誤解されかねない。
阿狼が去ったあと、風如は黙ったまま柱にもたれかかっている淋に問いかけた。
「淋、阿狼はどうだ? 純を任せられそうか?」
風如が淋の方を振り返り問うと淋は困ったように笑いながら答える。
「まだわからないですよ風如さん……」
淋は答えてからいつの間にか舞い散る花びらを追いかけて楽しそうに走り回る純に、まるで恋人を見つめるかのような優しい表情を浮かべた。
そんな淋の表情に違和感を覚えた夜雷彦は、今はそれを問う時ではないと一人胸にしまい込む。
「どうした?」
夜雷彦が一瞬顔を強張らせたことに気づいた風如は声をかけたが、夜雷彦はなんでもありませんと微笑むだけでそれを答えることはなかった――。
最初のコメントを投稿しよう!