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剴は風如の方へ顔だけを向け、嫌味ったらしく笑って言い放った。
「貴様は慣れているんだから、だらしのない巫女をしっかり――」
「じゃあ、そろそろ行くか」
剴が言い終える前に風如は背を向け、純の手を引いて歩き出し楽しそうに笑っている。後ろで剴がなにか怒鳴っているようだが、気にする様子もない。むしろ純の方が振り返りながら「いいの?」と気にする始末だ。振り返った時、剴を宥める澤真の姿が見えた。
突然去ってしまった風如を追いかけ、阿狼と夜雷彦と淋は澤真に一礼してその場を離れる。
城門の脇に控えさせている馬の近くにまで来ていた風如にやっと追いついた阿狼たちは、今度は五人揃って澤真に一礼した。
兵士たちの手によって、すでに馬の鞍に荷物を乗せてある。阿狼と淋、風如と純、夜雷彦は一人で馬の背に乗り、阿狼を先頭に城をあとにした。
「風如、頑張ろうねっ」
馬上で風如の前に横向きに座る純は、緊張した表情の中にもなんとか笑顔を見せて言う。
「ああ。でも今は無理しなくていいよ。なぁ阿狼?」
風如は鞁を左手だけで持ち、純の頭を右手で優しく撫でながら言った。阿狼はしかたないなと少々ため息混じりに呟く。しかしその表情は優しいものだ。
「巫女様、どうかご無理なさらず、今は気を楽になさって下さい」
阿狼とは違い、夜雷彦はただただ優しい柔らかな声で純に語りかけた。淋はそれに頷き、純に微笑みかける。
(わたし、一人じゃないんだよね……。うん、頑張ろう。母さんみたいにはいかないかも知れないけど、わたしらしく!)
ようやくいつもの自然な笑顔を取り戻した純を見て、いちばんに安堵の表情を浮かべたのは意外にも阿狼だった。そんな阿狼を見つけ、風如が嬉しそうに目を細めて微笑んだことに気付いた者はいなかった。
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