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「静かだな、この場所は」
廊下を歩く足音は一つだけ。それ以外は何も聞こえてこない。
窓の外からは、小鳥が囀ずる声が聞こえてくるが、ここでは小さな囁きとしか響かない。
心地よい風が頬を撫でる。
定期的に切られている髪型は、男の子らしく短い。漆黒のような髪の色は、太陽の光を受けて美しく輝く。
顔立ちは中性的で、見てくれでの性別の判断はしにくい。体格も幼い故か男らしいものではなく、華奢で掴んだら折れてしまいそうなくらい細い手足。
儚いという印象を受けるフォルトゥの外見は、誰もが魅入る端麗さである。
長い廊下を右に左へと曲がるうちに、小さな庭園にたどり着いた。
中央には鳥籠を大きくしたような日除けがあり、その下には長椅子が置かれている。
戸惑うことなく日除けの下へと足を向ける。地面には綺麗に手入れされた芝生が敷き詰められ、石畳も敷かれており洒落た造りになっている。
辺りを見渡せば、様々な種類の花が花壇に咲き誇っていた。
「綺麗だな、ここに咲く花花は」
誰かが聞いているわけでもない独り言を呟く。
どんなに美しい花が咲いても、彼には一瞬の出来事でしかない。花を何時間も眺めていたとしても、数分で何を見ていたのか忘れてしまう。
「いつから咲いていたんだろう」
「昨日から咲いていたよ」
独り言として呟いた疑問の台詞が、突然やって来た人物に返答された。
驚きもせず、後ろを振り返れば見たことない服装を纏った少女が立っていた。
「あら、初めて見る顔ね」
フォルトゥの顔を見るなり少女は、驚くように言葉を発した。
長い髪を風に靡かせ、ゆっくりとこちらに向かってくる。大きな瞳はフォルトゥを捕らえ、陽気に鼻歌を口ずさんでいる。
「お隣いいかしら?」
無言で表情ひとつ変えないフォルトゥの隣に腰を下ろす。目の前に広がったのは、深紅の薔薇が咲き乱れ、太陽の光を花全体に受け止める姿。
未だ蕾のものから散っていくものと、見ていて飽きない花の一生が一つの風景として描かれている。
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