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「薔薇は好き?」
「分からない、初めて見ると思う」
薔薇を眺めながら答える。
昨日も、その前からもずっと見てきたはずだが、何一つ覚えていない。初めてではないと感じているが、いつ見たのか記憶にない。
フォルトゥにとって、これが当たり前であって日常茶飯事だ。
「そう?あなた、昨日もここに来て薔薇を眺めていたわ」
「そうなのか、だから初めてじゃない気がしたんだ」
「うふふ、あなたって面白いね」
隣で笑う少女の顔を見れば、どこか苦笑混じりだった。多分彼が言った言葉に呆れているのであろう。
「私はセイレーン、あなたは?」
「僕は…フォルトゥ」
「フォルトゥはこの施設に何時来たの?」
「……分からない」
短い自己紹介と、簡単な相手の詮索。見た感じでは、二人とも同年代みたいだ。
施設とは、フォルトゥやセイレーンがいるこの場所。主に親を亡くした又は捨てられた子供たちが集まる孤児院。
しかし、一身上の都合で連れて子供が大半で、セイレーンは親の育児放棄でこの場にやってきた。身勝手な親に捨てられ、行き場をなくした子供たちは自然とここへ集まってくる。
「あら、覚えてないくらい長いの?」
「多分、そうだと思う」
会話中にもいつ頃来たのか、記憶を遡ってみるがただの悪足掻きにしかならない。
一体自分が何者なのか分からないフォルトゥにとって、思い出話は酷なことだった。
「もうすぐ検診の時間だから戻る」
そう言い終えると、すっと立ち上がった。慌ててセイレーンは、言葉をかけた。
「部屋はどこなの?」
「あっち」
セイレーンの問いかけに対し、フォルトゥは大きな建物の陰になっている小さな建造物を指した。
そこは、一般の人が行くことのない所。外部とシャットダウンされた、フォルトゥが日々過ごしている場所は、どう見ても隔離施設だった。
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