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「…そんな子ここにはいないわ」
少しの間が空いたが、カリスはきっぱりと言い放った。表情は笑ったままだったが、声のトーンからすれば彼女は嘘をついている。
明らかにフォルトゥの事を隠しているようで。
「そうなんだ、変なことを聞いてごめんなさい」
これ以上追求することもなく、セイレーンはあっさりと引き下がった。カリスも内心ほっとしたのか、役に立てなくてごめんねと謝った。
何事もなかったかのように、彼女は他の子供たちと合流し、施設を後にした。
再び長い廊下を淡々と歩いていくフォルトゥ。足は寄り道をせず、着実に自室に向かっている。
規則正しく廊下に響く足音。一人分の音だけが鳴るそこは、邪魔な音は一切ない。
かつん、と足音が止まり、衣服を弄る音が響いていく。
取り出したのは、小さなカードだった。それをドアの横についている機械に通す。すると、カチャンという物音がしたと同時にドアを開け、そのまま扉の向こう側へと消えていった。
「時刻は……9時56分。丁度良い時間だね」
小さく呟き、肩にかけていた上着をハンガーに掛ける。上着を纏ったそれを所定の位置であるフックに掛け、近くにあるベッドに腰を下ろす。
一通りやることもなくなったフォルトゥは、辺りをゆっくりと見渡していく。
きちんと整理整頓された机に、写真立てと季節ごとに咲く花が生けてある花瓶が置いてある。彼が好んで置いたのではなく、検診の時に来る女性が用意したものだ。
机に手を伸ばし、写真立てを取る。写真中央に写っているのは、幼い頃のフォルトゥだ。両隣には大人の男女がいるが、全く見覚えがなく、自分との関係性がないと思っている。
「僕が思い出せないだけかな」
手に持っていたそれを、元の位置に戻す。
ずっと眺めていても、何も思い浮かばない。首を傾げていると、ドアが開く音で反射的にそちらを向く。
「元気そうね、フォルトゥ君」
「……そうですか?」
胸元に名札をぶら下げた女性が入ってきた。目で追うように彼女を観察していると、視線が気になったのか苦笑いをした。
「ジロジロ見ちゃ駄目よ?もう少ししたら先生来るから、それまでお話でもしてよっか」
そう言うと女性は、フォルトゥと向かい合わせになるよう椅子に座った。名札には“エリス”と書かれており顔写真付きである。
「エリス、あの写真に写っている人は誰?」
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