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「また名札見たでしょ、毎日会っているのだから覚えてね」
「わかった。で、写真の人は誰?」
昨日までは気にも留めなかった写真の事を、今日のフォルトゥはしつこいくらいに聞いてくる。どういった心境の変化なのか、エリスは彼の質問に答えた。
「貴方の両親よ、忘れちゃったと思うけど」
言われてみれば、フォルトゥは両隣の人によく似ている。しかし、彼は納得のいかない表情をしている。
エリスはこれ以上彼の記憶に触れないように、話題を変えることに努めた。
両親との写真を飾っておけば、何かしら思い出すきっかけになると思っていたが、今はその逆であることを思い知らされた。
「なんだ、楽しそうじゃないか」
会話をしていて気付かなかったが、扉の前には白衣を着た青年が立っていた。手にはファイルを持ち、エリスと同じように胸元には名札がぶら下がっていた。
「先生、遅いですよ」
「ファイルをどこに片付けたのか、さっぱり分からなくてね。探すのに手間取ってしまったよ」
苦笑しつつ、青年はフォルトゥの前に腰を下ろす。外傷は至ってなく、外での危険行為はしていない事を確認。見た感じでは顔色は良く、健康そのもののようだ。
「ルキス先生、僕はいつまで検診を続けなくちゃいけないの?」
「まだ……長引きそうだね。フォルトゥ、名札を見たかい?」
一瞬言葉に詰まったルキスだったが、今度はこちらから質問を返す。先程エリスが言っていた事と同じ、名札を見たか見ていないかだ。
「……見た。じゃないと名前分からない」
「そうか。じゃあエリスのも見たんだね」
こくりと頷くフォルトゥ。それを見たルキスとエリスは肯定とみなし、険しい表情をした。
「少し席を外すね」
短く言い終えるとルキスはエリスを連れて、部屋を出て行ってしまった。その行動にいまいち理解できないフォルトゥは、大人しく部屋で待つことにした。
「ルキス、やはり彼は……」
「あぁ、予想通りフォルトゥの記憶力は徐々に低下している」
「……何とかして食い止められないのですか?」
「無茶を言うな。原因不明なんだぞ、治したくても治せない」
成す術もない状況に陥っているフォルトゥの記憶障害。日増しに彼の記憶力は低下をみせ、先日までは二人の名前は覚えていた。
しかし、今日になって名前を覚えていない。
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