― プロローグ ―

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――…やぁ、諸兄並びに淑女の諸君… ご機嫌如何だろうか? ……何、私はいつもと変わらないさ。 毎夜、癒えぬ喉の渇きに悩まされ。     . 毎夜、人であった頃の胸を痛め… 夜風吹く冷たい闇をさ迷う……。 この生きざまを美しいと思うか? 羨ましいと思うか? …それは君等が無知だからだ。 我が名はフェスター・トランシルバニア 第二マーチェスト卿。 父はベルダヴィッチ・トランシルバニア…高名な詩人であり…遊び人であった。 私は、そのしがないシェークスピアの一人息子だ。 母親は居ない。 居ないというか、分からないのだ。 母と呼べるに相応しい女が居なかった上、誰が父に抱かれたのかが分からなかった。 だが暮らしは贅沢そのもの…。 手に入らないものは、何も…無かった。 それも遠い昔の話だ。 君たちは“永遠の命”に憧れた事はあるかな? かつての私は憧れていた。 不死になり、何百という時を越えたいと……。 だが、実際手に入れて知った…。 永遠の時間など―…生きるに相応しくない空虚な時間でしかないと…。 今では恐れていた死さえ愛しく感じる…。 老いていく人々を羨ましく思い…。 安らかな死の床に着くのが堪らなく願わしい。 さて…下らない前口上はこの辺りにしておこう。     . . . . . . . . 私には死ぬほど長い時間があるが… 君たちには時間がないからな…。 さぁ―…心して聞くが良い。 君たちに私の全てを語ろう…。 私が何者で… どんな風に生きてきたかを―……。  
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