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「アシュレイ! アーシュレーイ! ……ア」
「煩い!」
スパーン! と気持ちの良い音が、宮殿の高い天井の反響を受けて冴え渡った。
ここ砂漠の国ガレバーシャは、一度きりのめでたい日を迎えていた。本日この国の第二王子、アシュレイの十八回目の誕生日を祝う会――即ち成人の儀式が執り行われる予定なのである。
しかし当の本人が見当たらず、国王イシュヴァーンが早朝から声を枯らしている所を、王妃エメラが履いていたサンダルで思い切り叩いたのだった。
ワンポイントの小さな花飾りが美しい。
「いってぇっ!」
「あの子ならもうとっくに警備に出たわよ。アンタがいびきかいてる内にね」
「ったく、生真面目なヤツだなぁ。今日は良いって言っといたのに」
「本当、アンタと私の子とは思えない良い子だわ」
王妃はサンダルを履き直しながら上目遣いで夫に語る。しかしサンダルの踵部分をカバーするベルトが片手では上手く装着出来ず、結局王妃は床に座り込んだ。
丸々太った彼女のその様子は、まるでぬいぐるみの様に可愛らしい。
「おいエメラ。お前また太っただろ」
「余計なお世話よ」
何とか履き終え、王妃は立ち上がると国王の胸を軽く拳で突いた。
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