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「まぁいいや。アイツより先にお前に見せてやるよ」
国王は脇に抱えていた資料をどさりと王妃の腕に落とした。
「ぅ重っ! まさかこれって全部」
「当然、アイツの嫁候補の資料だ。年令、性格、家柄なんかも色々詳しく書いてあるんだぜ」
「呆れた……」
得意気に鼻息を荒くする国王に対し、王妃は肩も使って盛大に溜め息をついた。
「本当、こういう事には気が回ると言うか、しつこいと言うか」
国中の若い女性の名が記されているのではなかろうか、という程の膨大な資料を眼前にしている王妃。息子がコレを見たら、と想像し再び溜め息をつく。
「アイツを思えばこそだ。十八までに妃を迎えるっつーのは、一応我が王家のしきたりでもあるしな」
「そんなカビの生えた様なしきたり……。私達の馴れ初めを思い出すと未だに胃が痛くなるわ」
二人に何があったのかは不明だが、国王は一瞬目を閉じ、王妃は本当に胃を押さえる。
「……でも、俺の嫁になって良かっただろ? あっちゅー間に丸々肥えやがって」
「そうね。ここに居れば、良い物沢山食べられるんですものね」
恐らくお互い遠慮なし夫婦の冗談だが、本気だったら切ない会話が繰り広げられる。
乾いた笑いが、二人の他は誰も居ない謁見の間に響いた。
所変わって今度は黄金の大海原……もとい、砂漠。
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