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三百六十度、どこを見ても砂しかない。
見慣れた光景ではあるが、そのあまりのつまらなさにアシュレイは無表情のまま溜め息をついた。
手綱を引き、一度馬の足を止める。
「どうしました? 溜め息なんかついて」
国境警備隊副隊長ターセルが、どうにも暗い隊長の隣に馬を並べる。
彼の頭を豪快に覆う白いターバンが、相も変わらず重そうだ。取り敢えず本人は気に入っているらしい。
「今日はお前の大事な日だろう? もっと明るい顔をしていたらどうだ」
そしてターセルとは反対側、アシュレイを挟む様に第一王子ラハンも足並みを揃えた。
大分体格の良い彼を乗せた馬は、何となく辛そうな顔をしている様に見える。
「兄さんは……」
視線は真っ直ぐ前を見据えたまま、アシュレイが口を開いた。
「ん? 何だ」
「……いえ」
「本当に元気がないな。そんなに嫌か? 結婚」
「嫌に決まっているじゃないか!」
朝からその結婚の事で悶々としていたアシュレイには、ラハンの軽い言い方が堪えた。勢い良く兄の方に向き直りながら、不自然な程の大声で言い返す。
「わ、悪い。でもな、なかなか結婚というのも良い物だぞ。子供も可愛いし……」
ラハンは美しく献身的な妻と、生まれたばかりながら利発な顔立ちの息子を想い微笑む。いや、にやける、と表現すべきだろうか。
「兄さんはそうかもしれないけど、私はまだそんな事……とても考えられない」
「王子」
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