55人が本棚に入れています
本棚に追加
折角の誕生日だというのに。
今日は朝から全く笑顔を見せないアシュレイを気遣い、ターセルが小さく声を掛ける。
「もうこの辺り一帯は見て回りましたし。少し寄り道してから帰りましょう」
「コラ、副隊長!」
この後大事な儀式が控えているというのに何を言い出す、とアシュレイの返事を待たず、ラハンの方がターセルを叱り付けた。
「兄さん、ちょっとだけ。逃げはしないから」
アシュレイは右手で愛馬ロークの手綱を掴んだまま、お願い、と左手を立てて自身の顔前に持って来た。
まるで祈るかの様に、ぎゅっと強く両目を瞑っている。
「やれやれ、お前には適わないな……。私は疲れたから先に帰るぞ」
日々の政務に追われ、久々に日の下に出たラハン。確かに心配になる位汗を掻いている。
実は数刻前から汗を拭い続けており、その手の動きは何時までも止まる事がない。
「ありがとう兄さん」
しかし、ここで微笑むアシュレイにつられ、眉を寄せていたラハンもつい笑ってしまった。
そして素直にアシュレイ、ターセルのみを残し、その他の部下を連れて城への帰路についてしまう。
「お前はアイツに甘ぇーな、ホントに!」
そしてラハンは戻った途端、国王から拳骨を頂くのだった。
「そんなもん、逃げる口実に決まってんだろ!」
「大丈夫、寄り道すると言い出したのはターセルだよ、父上」
加減されたとはいえ、怪力国王の拳。鈍器で思い切り殴られたような強烈な痛みに涙を浮かべながらも、ラハンは何とか口元だけで笑みを作った。
最初のコメントを投稿しよう!