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きっちり撫で付けていたオールバックが崩れた頭を擦りながら、拳骨をもらってしまったのは久しぶりだな……と思う。
ラハンは何だか、不思議と可笑しかったのだった。
「ちっ、ターセルのヤツ……。まぁアイツが言い出したんじゃねぇなら大丈夫か」
「『逃げはしない』とも言ったから」
「そうか」
アシュレイは今まで嘘をついた事がない。その代わり、一度口にした事は何が何でもやり通そうとする頑固な一面がある。
ラハンの報告からは取り敢えず危険因子を認めなかった国王は、ほっと胸を撫で下ろした。
そしてこちらは砂漠の西端。小さなオアシスで、アシュレイとターセルは馬を休ませていた。
大陸の端でもあるので、ヤシの木々の合間からは遠く、海も見える。その海岸線は朝日を受け、きらきらと輝いていた。
部隊から離れたアシュレイとターセルの二人は、手ごろな砂岩に腰掛け、何故か雑談に花を咲かせる。
「ターセルはさ、奥さんとどうやって出会ったの?」
「市場ですよ。でも暗ーい裏通りですね。ゴロツキ共に荷物を奪われそうになっていたんです」
「へぇ! じゃあそこを助けたんだ! 格好いいな」
「いえ……荷を奪われそうになっていたのが俺で、助けてくれたのが彼女です」
「そうか。いいな、強い人で」
この国ならではの感覚での会話である。強い、これ即ち、モテモテ。
「でもターセルだって凄く強いのに。どうして?」
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