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「ああ、それは……」
ターセルは言い掛けた言葉を一瞬呑み込んだが、やはり王子に隠す事ではないなと再び口を開いた。
「実は王の密命を受け、国内の治安状況を探っていたんです。やはりちょっと引っ込んだ所だともう怪しいですね。あの時は大通りから二本くらい逸れた所でしたか……。数刻もしないうちに男達が数人現れて」
「何だ、やっぱりわざとだったんだ。と言うことは」
「任務を妻に邪魔された、とも言えますね」
邪魔された、とは酷い言い草だが、まさかアシュレイにこんな話をするとは思っていなかったターセルの、精一杯の照れ隠しなのだろう。
もともと糸目のターセルなのだが、陽に焼けた浅黒い頬を染めながら、これでもかと言わんばかりに目を細めて微笑む。これで果たしてこの世の中が見えているのだろうか。
しかしそんな彼とは対照的に、アシュレイの表情は険しくなる。
「同い年の君は危険な任務で戦ってるというのに。私ときたら」
腑甲斐ないと溜め息をつくアシュレイを、隣のターセルは何故か呆れたような視線で見下ろす。
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