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「ついこの間、武術大会で優勝なさった猛者が何をおっしゃるのやら」
「でもそれは実戦じゃない」
「はぁ……まぁそうですけど……」
ガレバーシャでは毎年、城内で兵の士気を高める為に、剣、槍、格闘などの武術の大会を開いている。出場者は当然城の兵士のみ、という比較的小規模の物ではあるものの、その大会に王子まで出場し、しかも優勝したらしい。
つまりこの励ますターセルよりも、当然アシュレイの方に武がある、という事になるのだが――。
その優勝者の大袈裟なまでの塞ぎ込み様に、実力がありながらこれ程自分に自信の持てない人間が存在して良い物か、とターセルまで肩を落とす羽目になる。
これも、アシュレイの性格のなせる業なのだろうか。
これは参った、とターセルが次は何と声を掛けるべきかと思案していると、先にアシュレイの方が口を開いた。
「そろそろ帰ろうかターセル。日が高くなって来てしまった」
すっくと立ち上がり、ターセルに向かって手を差し出す。
「えっ、は、はい」
逆光で良く見えない表情をつい探ろうとしてしまい、ターセルは手も出せないまま、ただ困惑してしまうのだった。
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